15-3 下山と報告

 さすがに魔法を限界まで使った後だけあって、体がかなりきつい。

 結界を張る都合上、熟睡とはいかないから、回復も少し足りない感じだ。

 セシリアと並んで寝たものの、手は出していない。正直、そんな余力はない。


 「ふうん。せっかく2人きりにしてあげたってのに、つまんない奴だね。

  なに? セシリアはそれで何も言わないの?」


 だから、そんな余力はないっつってんだろが。

 大体、2人きりったって、ちょっと離れたとこにゃ石工達がいるんだぞ。そんなとこで何おっぱじめろってんだよ。


 「そんなことより、お前の方は体調もういいのか? かなり苦戦してたろ」


 「あのデカブツは、君がいないとキツいね。

  足手まといがいる状態じゃ勝てないよ」


 イリス達を庇ってたから苦戦したってのは間違いないが、それだけあの巨人が強いってことでもある。


 「直線で急に突っ込んでくることがあってね、結構速いんだよ。

  あれ、全開で来られると、僕じゃなきゃ避けられないんじゃないかな」


 「そんなにか」


 レイルじゃなけりゃ避けられないって、牙猪の突進かよ。岩の塊があんなマネできんのか。


 「見付け次第、魔素どかして止めるしかないな」


 「そうだね。

  まあ、その意味でも君の力についてある程度話さなきゃいけないだろうね」


 「細かいとこは支部長とセシリアだけに話すとして、イリス達には、俺が魔法で巨人を止められるってだけにしとくか。幸い魔法にゃ詳しくないだろうから、ごまかせるだろ」


 「ま、そんなとこだろうね」




 そして3日掛かって、1体目の巨人が解体された。

 セシリアは言葉どおり、石工への指示と食事の世話をしてくれた。

 幸いというか、荷車に食糧を積んできてたから、新鮮とは言えないものの材料は豊富で、出先で食べるには十分ぜいたくな食事にありつけた。

 本来なら、セシリアには俺達とイリス達の緩衝材の役目もあるんだろうが、なにせ顔見知りだし試験の時も今回も助けてやってるもんだから、いざこざなんかあるはずもない。

 体力を回復させつつ軽く体を動かしておくために、サンドラと軽く剣を合わせたりもした。

 さすがに9級とはいえ本業の剣士だから、いなすのに精一杯で俺からはほとんど攻める隙がない。

 こりゃ、イリス相手だと勝てないかもしれねぇな。




 2日目の夜は、満月だった。

 となると恒例の、レイルとみゃあの月光浴だ。

 イリス達はまだしも、石工達まで“なんだこいつ!?”って目で見てるのが地味にきつい。

 セシリアなんて真顔で


 「レイルさんの、あれは何なんですか?」


なんて訊いてきやがった。


 「うちでも、満月の夜はやってるぞ。

  たまに、みゃあが鳴いてる時があるだろ」


って言ってやったら


 「え!? 普段はおとなしい子なのに、たまに夜中に大きな声で鳴いていたのって、こういうことだったんですか!?」


とか言って驚いてた。

 だからよしとけって言ったのに、レイルの奴は一向に構わないとか胸張ってやがったんだ。




 ようやく1体目の巨人の解体が終わって帰れることになったが、結局その間何も起こらなかった。

 石工と、回復したイリスが荷車を引いている。

 俺とレイルが後ろ、サンドラとミュージィが前を守って下山する。

 普通は強い奴が前にいるべきだが、今回は3体目が後ろから襲ってくる可能性があるから逆にしてるわけだ。




 ギルドに戻って、これからが正念場だ。

 まず、石工とイリス達には、重大な事件の可能性があるからということで、向こうでのことは秘密にするよう厳命された。もちろん、通常の作業内容までは大丈夫だ。

 本来なら、ギルドに入ってない石工には強制力がないんだが、支部長からは違反すればギルドへの敵対行為とみなすと言われてるから、多分大丈夫だろう。その分、報酬も色つけてもらえるだろうしな。

 俺達2人は、セシリアと一緒に支部長に報告だ。

 まずはセシリアから、2体目が出たこと、間に合ったレイルが倒したこと、その際イリスが重傷を負って俺が治したことが報告された。


 「で、どうやって倒したって?」


 大まかな報告の後で、細かい状況を訊かれたので、仕方なく俺から


 「何かが起きてるらしいことに気付いたのでレイルが先行、時間稼ぎをしてもらってる間に俺が到着して2人で倒しました。

  前の奴の時と同じ戦法です」


 「それではわからん」


 当然、支部長はそれじゃ納得しない。

 ここからが本題だ。とりあえず、秘密を守ると言わせないとな。


 「ここから先は、俺達の手の内を晒すことになるので、ここだけの話にしてほしいんですが」


 「部外秘ということなら、守ろう。さすがに巨人を調べるために必要な部分については、ある程度向こうに説明せざるを得ん」


 「そこから外に流れるようなことは?」


 「絶対、と約束はできんが、まあ大丈夫だろう。

  お前達にとっては、今後、それを踏まえて依頼することにはなるだろうが、その程度だ。

  で?」


 まぁ、ここらが限度か。


 「あの巨人は、胸で魔素を吸って動いてます。

  魔素がなくなると、すぐ動かなくなるんですよ」


 「つまり、魔素をなくしたと?

  その場で強烈な魔法でも使ったか?」


 「俺は、魔素を引き寄せることができるんです。だから、巨人の周りの魔素をなくすことで巨人を止めました。

  あとは、ただの岩の塊です。

  もっとも、1体目は、それを確認できるまで念入りにやったんで、えらく消耗しましたがね」


 「止めたからといって、剣では斬れまい」


 「レイルは、強化の魔法だけ使えるんです。

  身体強化と剣の強化、それで岩を斬れます。ただ、魔法士じゃないんで、解体できるほどには使えないってわけです。

  最初も、かなり休み休みでやっと手足を落としました。

  で、俺は魔素の流れを見ることができるんですが、今回見付けた魔素溜まりは、普通じゃないって気付いたわけです。

  この前の洞窟の円板、あれみたいな感じで、魔素を吸ってます。

  もしかしたら、あの巨人は、円板の魔法士のなれの果てみたいに、魔素溜まりから出てきたんじゃないかと思いましてね」


 「魔素が見えるというのは荒唐無稽だが…少なくとも魔素の流れを感知できる魔法士は多いし、普通よりやや強力と考えれば十分あり得る力だ。

 わかった。こういう予想外の特技を主軸に戦うのなら、秘密にしたいのも納得できる。

  できる限り絞った情報ですませることを約束しよう」


 なんだかんだで、とりあえず支部長の腹次第って感じになっちまったな。

 その夜は、セシリアがやたらと可愛かった。

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