15-2 セシリアと

 しまった…。レイルが身体強化を使えるって言っちまった。

 どう誤魔化したものかと必死に考えてると、レイルが口を挟んできた。

 

 「僕は、強化系の魔法だけは使えるんだよ」


 おい、レイル!?


 「魔法…ですか? レイルさんが?」


 セシリアはよくわからないって顔してるが、それを言っちまったらまずいんじゃないのか。


 「しょうがないよ。

  どのみち、僕がデカブツ真っ二つにするの見られてんだし。

  どうやってごまかそうかと思ってたら、口の軽い相棒がうっかり口滑らしちゃうんだもんなあ」


 「すまん」


 俺が迂闊だったのは確かだから、素直に謝っとく。


 「あの…本当にレイルさんが魔法を使えるのですか?

  それじゃあ、あの巨人が急に動きを止めたのもレイルさんの魔法だったんですか?」


 「僕の話聞いてた? 僕は強化の魔法しか使えないんだってば」


 頭の回転の速いセシリアも、剣士レイルが魔法を使えるなんて急に言われて混乱してるらしい。


 「それでは、あれはフォルスさんが?

  たしかに、動きが止まったのはフォルスさんの姿が見えた後でしたが…」


 ここまでくれば、巨人を止めたのが俺だってことはわかるよな。

 さて、どこまで話したもんか、と思ってレイルを見ると、目で“話していい”と言ってきた。


 「あれを止めたのは俺だ。この前戦った時、止め方を思いついたんだ。

  魔素がなければ、奴は動けない」


 魔素をなくす方法は色々あるが、魔法を使えないセシリアなら、これで終わるかな。

 魔素を操る俺の能力ちからは魔法士殺しだが、魔石を使われれば役立たずになる。

 支部長あたりにゃ通じないだろうが、とりあえず、な。セシリアを信用してないわけじゃないが、他の奴もいるし。


 セシリアは、少し考えて、俺の目を見ながら言った。


 「詳しいお話は、戻ってからで結構です。

  それで、これからどうしましょうか」


 案外怖い女だな。

 隠し事があるのはバレちまってるってわけか。


 「石工が無事だったんなら、とりあえず巨人の解体を続行だな。

  3つめが出てきても、俺とレイルがいりゃ撃退できる。

  どのみち、俺は2日くらいはまともに魔法を使えない。イリスの治療でかなり無理したからな。下手に動かねぇで休養を取りたい。

  それに、イリスも治ったばっかだ。もうちょいしたら腕も治すが、2~3日は体を休ませないと本調子にはならんだろ」


 「魔法が使えないのに、巨人を倒せるのですか?」


 冷静だな、おい。


 「全力で使えないってだけだ。

  あ~、そうだな、半日全力で走り続けた翌日に、同じように走れるか? それと同じだ」


 「なるほど。

  では、ミュージィさん、サンドラさんと協力して、私達の護衛をお願いします。

  その分の追加報酬はお支払いしますので」


 「なるほど、調整役だな。いいだろう、受けた。

  いいな、レイル」


 「いいよ。基本、僕は待機だね」


 「そうだ。今のうち、体休めといてくれ」


 前にセシリアは、ギルドの職員が前線に出る時は、複数のパーティーの調整役をすることが多いって言ってたっけ。

 今日、リーダーであるイリスが大怪我したことで、ミュージィとサンドラは動きにくくなった。剣士と弓士1人ずつじゃ、巨人どころか、ちょっとした魔物が出てきたら終わる。

 その点、レイルならイリスの抜けた穴を埋めておつりが来る。

 ここに来た目的である巨人の残骸はなんとか回収したいだろうしなぁ。

 少し回復したところで、イリスの腕も治したが、やっぱりきつかった。




 寝る時は、石工を中央に集め、レイルとみゃあ、俺とセシリア、イリス達3人が三方から囲むかたちだ。

 魔素溜まりに近い方向は、俺にした。

 結界を張るくらいなら、今の状態でもいける。

 夜、セシリアと2人きりになったところで、昼間の推測を話してみた。


 「妙な魔素溜まりなんだ。

  普通なら、少しずつ魔素を出すはずなのに、ここにあったのは魔素を吸ってた。

  例の魔法陣の円板が似たような感じだった。

  この岩山で、誰かが魔素溜まりを造ってんじゃないかと思うんだ」


 「魔素溜まりを人の手で造れるのですか?」


 「造れるかと言われるとわからんが、魔素溜まりに2種類あるってのと、誰かが魔素溜まりを造ろうとしてるってのと、どっちも同じくらい信じられない話だと思うんだがなぁ」


 予想どおり、セシリアの反応はよくない。


 「あの、フォルスさんを疑うわけではありませんが、魔素溜まりの性質というのは、どうやって調べたのでしょうか?」


 「調べるっていうか、魔法士は魔素の流れを感じる力があるんだ。俺は、少しばかりその力が強い」


 「それでは、魔法士なら誰でも感じ取れるのですね?」


 理解が早いのは助かるが、ちょっと鋭すぎるなぁ。


 「誰でもとは言えない。得手不得手があるからな。

  だが、魔素の動きに敏感な奴ならわかるはずだ」


 「わかりました。戻ったら、支部長に報告してください。今回の調査の報告ということですよね」


 「ああ、わかった」


 さて、巨人が魔素溜まりから出てきたんじゃないかなんて話、相手にされるかねぇ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る