11-2 囮を探せ

 「は? なに、その魔獣。聞いたことないんだけど」


 夜、レイルに話してみると、予想どおりの反応が返ってきた。

 そりゃそうだよな。俺だって聞いたことない。


 「で? まさか、受けてきてないよね?」


 「当たり前だ。俺達2人でできないことを勝手に決めたりしねえよ」


 「フォルスにしちゃ上出来だね」


 「なんだよ、俺にしちゃって」


 「最近、陰険女にいいように使われてたからね」


 相変わらず、レイルはセシリアに辛辣だ。


 「囮が用意できるんなら受けてもいいんだが、アテがないんでな」


 「そうだね。

  男の匂いが嫌いとなると、娼婦の類は使えないだろうし。

  あ、僕に期待しちゃ駄目だよ。僕は処女は相手にしないことにしてるから」


 まぁ、レイルが引っ掛ける女は、大抵は男遊びするような輩らしいからな。

 そもそも、素人を街の外に連れ出すのは、危険が大きすぎる。


 「となると、冒険者か。しかし、処女かどうかなんて、見てわかるもんじゃないしなぁ」


 「わかるよ」


 「は!?」


 レイルがとんでもないことを言い出した。


 「お前、女見ただけで処女かどうかわかるってのか?」


 「前に言ったことなかったっけ? わかるよ。だって僕、処女は避けて声掛けてるんだよ。わからなきゃできないだろ」


 …たしかに。あれ、冗談じゃなかったのか。


 「じゃあ、レイルは誰を連れて行けばいいかわかるってことか」


 「ちょっと待ってよ。僕は処女かどうかわかるって言っただけで役に立つ奴かどうかまではわかんないよ。

  第一、なんて言って誘うわけ? “君は処女だろう、仕事を手伝ってくれ”? 誰が手伝うのさ」


 言われてみりゃ、そのとおりだ。

 処女と見込んで手伝わせるとなると、街の外に連れ出して襲うみたいな話になるんじゃないか?


 「無理だな」


 「わかった? んじゃ、断ってきてよね」


 「ああ、わかった。

  …なぁ、この前の新人、サンドラが処女だって言ってたよな。あいつだったら手伝ってくれると思うか?」


 「3人組の1人だけ連れてくって? しかも、こんなん連れてったら、こっちからコナかけてるみたいじゃない。やっと最近まとわりついてこなくなったってのに。

  ぜったいだね」


 「そうか。そうだな」


 サンドラのパーティーには、イリスがいる。俺達だけでも困ってるのに、更に男を増やすのは困る。かといって、あいつらのパーティーからサンドラだけ連れ出せば、あとの2人は仕事にならない。

 明日、セシリアんとこに断りに行くか。


 「連れてけそうな処女なら、心当たりがあるけど」


 「あるのか!?」


 「陰険女なら、連れて行ける」


 「セシリア? ありゃ冒険者じゃなくてギルドの職員だぞ」


 「だからだよ。

  あいつなら処女だ。

  でも、単なる職員だから、荒事には向かない。

  ついでに言うと、あの女なら、光る魔法陣を見せても平気だから便利だし。

  安全だって言うなら、あいつ連れてけばいい。身の安全は保障しないって条件で。それが嫌なら断るってことにしよう

  向こうから駄目だって言ってきたら、断りやすいじゃない」


 「なんだ、そりゃ」


 「僕らが一方的に断るよりも、条件を提示した上で断られた方がいいじゃない。

  お前が嫌だってんなら、僕らも嫌だって」


 無茶な条件出して、嫌なら断るってか。まぁ、上手い手ではあるな。無碍に断るより、角も立たないか。


 「お前、狡賢いな。俺より交渉ごとに向いてるんじゃないか?」


 「自分で言う気はないからね。

  面倒ごとは嫌いって時点で、向いてないだろ」


 そうか、性格の問題があったか。


 「まぁいいか。んじゃ、支部長んとこ行ってくっか」




 セシリアに取り次いでもらって支部長に会う。当のセシリアが脇にいるのに話をするのは、ちょっと気が引けるな。


 「先日の、一角馬とかって奴の話なんですが、なんせ俺達は男2人組です。話になりません」


 「だから?」


 おや? 妙だな。まるで断られるとは思ってないって顔だぞ。まさか俺が次に何言うつもりかわかってるみたいな…。まさかな。


 「囮がいります。が、冒険者には適当な知り合いがいませんし、初対面では何かとやりにくいので、セシリアを連れて行きたいんですが」


 「わかった。連れて行くといい」


 なに!? やっぱり予想してたのか!?


 「あの、支部長! 私ですか!?」


 セシリアは驚いてるが、支部長は平然としてる。少なくともセシリアは自分に声が掛かるとは思ってなかったってわけか。


 「一角馬の捕獲には、囮が必要だ。彼らと一番気心知れてるのはセシリアだ。声が掛かるだろうとは思っていたよ。

  なに、道中も安全な道行きだし、一角馬も危険のない魔獣だ。担当の冒険者の仕事ぶりを間近で見るのも勉強だよ。行ってきたまえ」


 「あの、でも…。

  …はい」


 セシリアは、目をさんざ泳がせた後、支部長を見て小さくうなずいた。

 支部長の一睨みが効いたらしい。そうまでして俺達に行かせたいかね。

 それにしても、困ったな。こっちから話を向けた以上、今更嫌とは言えないじゃないか。


 「彼女の装備や食糧については、どうします?」


 「装備はギルドうちのを使わせる。食費なんかについては、経費として報酬に上乗せしておくから、その範囲でやってくれ」


 「わかりました。明日準備して、明後日の朝出発します。

  セシリア、開門の時間に門まで来てくれ」


 「わかりました」


 まったく、支部長の掌の上で踊らされてるなぁ。

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