11話 一角馬捕獲
11-1 困った依頼
貴族の坊ちゃん達のお守りの後、一月くらいは普通に依頼を受けてたし、妙な出来事もなくてホッとしてたんだが。
いつもどおり数日の休養を取ってる時に、またギルドに呼び出された。
レイルじゃないが、セシリアに呼び出されたとなると、嫌な予感しかしない。
「よぉ、今度はどんな無理難題だ?」
声を掛けると、セシリアは少し嫌そうな顔をした。
「その、私がフォルスさんに面倒ごとを押しつけているかのような言い方はやめてください。
私は仕事を斡旋しているだけです。これが私のお仕事なんですよ」
まぁ、セシリアの立場はそうなのかもしれないけどな。
「でも、“フォルスさんにしか頼めないんです”って言って、面倒ごとを持って来てるのは間違いないよな?」
「それは…。実際にそうなんですよ。実力的にも人格的にも、フォルスさんにしかお願いできないんです。その分、お金にもなっていますし、評価だって…」
「金になるのは確かだけどな、ちょいと危険が大き過ぎないか? 逆恨み野郎に襲われたのはともかく、野犬退治に行ったら魔狼が出てくるとか、死ぬかと思ったぞ」
事実を突きつけてやると、セシリアは口をつぐんだ。
さすがに、それを言われると反論できないようだ。
そりゃそうだよな。野犬退治なんて、本来ランクの低い奴らのための仕事なのに、ランク6のパーティーが壊滅するほどやばい魔獣が出てきたんだから。
「こ、今回は大丈夫です。
危険な魔獣ではありません。
一角馬捕獲の指名依頼です」
一角馬? なんだそりゃ。
「聞いたことないな」
「文字どおり、角が1本生えた馬型の魔獣です。
魔獣といっても、人を襲うことはほぼありませんし、角は攻撃に使いませんので、後ろに回って蹴られでもしない限り、怪我をすることもありません」
「ほぼってなんだ、ほぼって。
どうせまた、何かすると暴れるとか、そういう面倒な奴なんだろう」
「いえ、そういう意味で面倒ということはありません。襲われれば反撃するという程度で、捕まえようとすれば、普通は逃げます」
「逃げ足が速いとか?」
「端的に言えば、そうです。
その…男性の臭いを嗅ぎつけると逃げ出すんです」
「警戒心が強いってことか? まぁ、魔獣にしちゃ、人を恐れるってのは珍しいけどな」
「あの…人を恐れるわけじゃないんです。
なんというか、男性を嫌うんです」
「男?」
「はい」
「なんでだ?」
人を嫌う、人を襲わないという程度なら、まぁわかる。
人を食わない種類で、好戦的でない魔獣なら、いてもおかしくない。俺は見たことないが。
だが、男を嫌う? ってことは、女は好きってことだろ? 女好きの魔獣なんていんのか?
「その…女性特有の、ですね、魔力というか、何かそういうのがあるらしいんです。
それを好んで吸うのだそうで…」
「魔力を持ってる女だけが襲われるってことか?」
「いえ、襲いません。
あくまで平和的なんです。
その、女性の側に寄り添うように座って、ゆっくり吸うのだそうで…」
「何を言ってるのか、さっぱりわからないんだが。
なんで魔獣が近付いても平気でいられるんだ、その女は?」
角の生えた馬が寄っていったら、普通は悲鳴上げて逃げるか、迎撃するかだろう。なんだって仲良く寄り添ってられる?
「はあ、あの、一角馬は、貴族の家で、跡取りが婚姻した時に重宝される魔獣なんです。つまり、その…」
「はっきり言ってくれないか。何のことやらさっぱりわからん」
「び…」
「び?」
「媚薬のような効果があるらしいんです。
ですから、婚姻されたばかりの貴族の家で重宝されるそうで」
あぁ、子作りの役に立つのか。…随分と珍しい魔獣だな。
「どういう理屈だ? 一角馬にとっては何の意味がある?」
「どうやら、その、媚薬に
ですから、新婚の貴族は、新婦が一角馬の側でしばらく過ごしてから寝室に行くのだそうです」
「貴族ってのも大変なんだなぁ」
「跡継ぎを生むのが、貴族に嫁いだ方にとって一番大切なお仕事ですから」
妙な魔獣もいたもんだ。
「で? そいつを捕まえてこいってか?」
「なんでも、どこかの家で、新婦の前にうっかり使用人の男性が近付いたせいで逃げてしまったそうで」
「そりゃまた間抜けな」
「ええ。
その使用人はクビになったそうですが、それはそれとして、人に慣れた一角馬は貴重ですので捕まえなければならないんです」
「今の話のどこ押しても、俺達に依頼が来る理由が出てこないんだが。
俺が女に見えるか?」
「いえ、そんなことは。
一角馬は、女性の魔力を存分に吸った後は、男性が近付いても平気なんです。
ただ、動き自体は素早いので、慣れた方以外が近付けば、やはり逃げ出します。
支部長は、レイルさんなら、逃がさずに捕まえられるのではないかと」
なるほど。レイルの速さなら、確かにできるかもしれないが…。
「ですから、なんとか捕獲をお願いします。なんでも、その、囮を使うと簡単に寄ってくるらしいのですが…男性の匂いのしない、つまり、その…」
「処女ってことか?」
「…はい。
そういった方を雇ってのこととなりますし、その分依頼料は高めにしてあります」
「処女を好むってのは、どういう冗談だ? どこのスケベ親父だ、その馬は!」
「私に言われましても…」
「囮くらい、そっちで用意してくれないのか?」
「どなたか冒険者の方を雇うということでしたら、依頼を出すという形でお手伝いできますが」
自分で探せってか。
まぁ、冒険者相手に「処女募集」とか言ったってなぁ。
「ちょっと考えさせてくれ。
指名依頼ったって、強制はできないんだろ」
指名依頼が強制力を持つのは、5級以上。6級の俺達は、縛られない。指名依頼を成功させれば、ギルドに対する貢献として評価が高くなるってだけだ。
「強制はできませんが、できれば受けていただきたいです」
「レイルと相談してみる。
囮が調達できなけりゃ、さすがに無理だからな」
そう言って、俺はギルドを後にした。
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