9-2 2つの陣

 とりあえず手当たり次第にやってみようってわけで試してるんだが。

 輪郭だけなぞってみても、中心部分だけ描いてみても、うんともすんともいわない。

 これは、方向性を変えてみた方がいいかもしれないな。


 別な方向…紋様の意味とかは学者が考えてるんだろうし、違うやり方といえば、学者にゃできないやり方ってことだよな。

 俺達にしかできないやり方…魔力を使ってみるか?


 この魔法陣は、魔素を吸って効果を発揮する。なら、こちらから魔素を叩き込んでやったらどうなる? 試してみる価値はあるな。

 んじゃ、何かあってもいいように光るだけの魔法陣でやってみるか。


 「あれ? なんで丸写ししてんの?」


 レイルが訊いてきた。目敏いな。


 「こいつに魔素を送り込んでみようかと思ってな」


 「自然に吸うより大量にってこと? ふうん、面白いね」


 「だろ? んじゃ、流すぞ」


 描き上がった魔法陣に、周囲から集めた魔素を押しつけてく。

 すると、今まで魔法陣全体でうっすらと光っていたのが、光の流れとして見えるようになった。

 輪郭はトゲの生えた円だと思ってたが、円とトゲは別々だったらしい。

 線が描かれていない部分も含めて円く輝いてる。そして、トゲの方も、円を突き抜けて別のトゲと繋がって光ってた。

 トゲは、1つおいた隣のトゲと繋がって、三角が2つ重なった形で交互に光ってる。

 魔力の流れを見るのをやめると、元のトゲの生えた円でしかない。

 なるほど、そりゃ気付かないわけだ。線として見えないのに、線があるのか。

 再び目に力を込めると、やはり円と三角に見える。…いや、三角が2つ交互に光ってたのが、同時に光るようになってるぞ?

 もしかして、魔力の溜まり具合で光り方が変わるとか?

 とにかく、魔力が通って光り方がどう変わるかを確認するため、光ってる線を別の紙に描き写しておく。

 魔法陣の方は、しばらく魔素を送り続けると、中央の模様の方も光りだした。こっちは、光がめまぐるしく走り回ってる感じだ。


 「外側は魔素の吸収と魔力の生成のため、内側が魔法陣の本体ってとこか」


 つぶやいただけだったんだが、レイルが反応した。


 「なに? 仕組みがわかったの?」


 いや、そんな期待した目で見るなよ。


 「学者じゃあるまいし、そんな簡単にわかるか!

  ただ、魔素の吸収と魔力の変換を外側の円と三角でやってるらしいってわかった程度だ。

  内側の紋様で何やってんのかは、さっぱりだ」


 大したことはわからないって言ったつもりだったんだが、レイルは逆に目を輝かせた。


 「それがわかったんなら大したもんじゃない! つまり、内側のだけじゃ発動しないんだろ? 安心して調べられるじゃんか」


 ん? …あ、そうか。

 つまり、魔力の供給元を描かずに魔法陣を描けば、発動する心配はないのか。


 「頭いいな、お前」


 「はあ!? 調べたのフォルスじゃんか、何言ってんの!?」


 「いや、なんか一気に話が進んだなぁ、おい。

  これで、外側と内側、別々に試せるな」


 「外側? だから、魔力を生み出す仕組みなんだろ?」


 「だからさ、そこで作った魔力を何かに利用できないか? 元々、俺達はそのために調べてんだからさ」


 「ああ、魔力の自動供給ね。元々は勝手に回復する魔石みたいな使い方考えてたんじゃなかった?」


 「こっから魔石に魔力を籠められたら、勝手に回復する魔石になるじゃないか」


 「魔石使うんなら、僕らが籠めたって同じでしょ。紙1枚ですんだら便利だって話じゃないの?」


 「まぁ、いずれはな。とりあえず一歩ずつってことで」




 今度は、光る魔法陣の内側部分だけを描いた。


 「で、ここに俺が魔力を流してみる、と」


 魔石に魔力を籠めるように、魔法陣に魔力を流してみると、魔法陣がめまぐるしく光りだした。


 「うまくいったっぽいな。どこにどうやって魔力を溜めてるのかまではわからんが」


 「これを暗いところに持って行って光ったら、成功だよね」


 「そうだな」




 次は、外側だけ描いてみる。

 円と三角が光って魔力が生成されるが、取り出し方がわからない。試しに、紋様の真ん中に空の魔石を置いてみても、何も起こらないようだ。


 「こっちは失敗か」


 言い終わるか終わらないうちに、紙が燃え始めた。


 「あ~、行き場のない魔力で燃えたってとこか?」


 「そんな感じだね。使えないなあ」


 外側と内側を繋いでる線はないんだから、内側のどこかに魔力を取り込む仕組みがあるんだろうな。


 「ま、今日はここまでにしとこう」


 とりあえず、さっきの内側の紋様が夜光るかを確認して、続きは明日だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る