9話 見えない魔法陣
9-1 街の外で
娼館を出た後、いつもどおり宿に戻る。この宿は、この街に定着して割とすぐに住みついたところだ。
主も信用できるので、いらない荷物は預けっぱなしで仕事に出掛けられる。
宿賃は大体一月分先払いしてるから、部屋がなくなる心配もない。先払い分がなくなるまでに戻ってこなかった時は、荷物を好きに処分してもいいという約束になってるから、普段は宿の者は部屋には入らない。
まぁ、だからといって大事なものを部屋に残しておくわけもないんだが。
残してるものは、着替えだのなんだのといった細々としたものだが、いちいち出掛けるたびに全部持って歩くのは面倒なんだよな。
とりあえず紙を数十枚とペンとインク、それに昨日のインク缶を持って出掛ける。
レイルは、例によって猫を連れてるほかは手ぶらだ。剣は提げてるが、鎧は着けてない。
どちらかというと見物って雰囲気だな。
門を出て、街道から少し離れた辺りに落ち着く。まぁ、ここなら何かあっても他人に迷惑掛けないだろう。
さて、と。じゃあ、始めるか。
まずは、例の光る魔法陣と洞窟の魔法陣を取りだして見比べる。うっかり発動しないよう、少し曲げておくのも忘れない。
どちらも描かれてる紋様は大まかには円形だが、外周は突起状にギザギザしてる。ギザギザの数はどっちも6個か。共通点と言えば共通点だな。
円形の内側にも色々と線が入ってるが、小さな塊がないから文字という感じがしない。だから“紋様”という言い方をしてるんだろうが。
ほかに共通点はどこだ?
魔素を吸って魔力に変えるって能力が共通なんだ、きっとどこかが同じはずだ。
文字らしき塊がないってことは、きっと線の組み合わせが意味を持ってるんだろう。なら、線の交わり方なんかに共通性があるはずだ。
大まかでもなんでも円形なんだ、少しずつ回してったら、どっか一致するかもしれない。
縁からはみ出してる線が6個あるってほかに、共通点はないのか。はみ出た突起状の模様の位置を合わせてみても、その内側の紋様はまるで違う。
はみ出してる線を追いかけていくと円の中心に届く、みたいにわかりやすけりゃいいんだがなぁ。
「なんかわかった?」
首を捻ってると、レイルが近付いてきた。
こりゃあ、収穫がないのをわかった上でからかいに来たな。
「まったくもってさっぱりだ。
円いのと、このトゲトゲくらいだな、共通してんのは。
きっちりした図形ならよかったんだが」
「ふぅん。まあ、前から研究してた連中がちっともわからないんだろ? 僕らがすぐわかるくらいだったら笑っちゃうよね」
まぁ、そういう言い方もあるか。
「素人がちょっと見たくらいじゃ、やっぱダメか」
「ん~、素人だからどうだってより、君の目の方が専門の研究者より役に立つかもしれないよってこと」
目か…。そりゃ、目には自信もあるがなぁ。見えるのは、魔素や魔力の流れくらいだからなぁ。
「俺の目が役に立つのは、実際に試そうって段階になってからだぞ」
「だったら、手当たり次第に試してみればいいじゃない。
どうせ失敗したって、失うのは紙とインクくらいのもんでしょ。痛くも痒くもないじゃない」
「そりゃ、紙くらい減っても痛かないが…。
その手当たり次第ってのがまずいんだろ。
洞窟の時みたいに周りの魔素吸い込みだしたらどうすんだ」
「そういう時のためにインク持ってきたんだろ?
いいじゃない、ダメもとで」
「レイルは、もう少し慎重になった方がいいと思うぞ」
「僕と君がいれば、大抵のことは何とかなるって」
その脳天気さが羨ましいよ。
まぁ、試すつもりで来たのは確かだからな。
とりあえずやってみるか。
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