4-R 凄腕の試験官

 冒険者になるために、生まれ育った村を幼なじみの3人で飛び出して、4か月。

 街の中でできる仕事や、近場での簡単な採取の仕事を地道にこなして、9級への昇級試験を受けられることになった。

 試験の内容は、ミツバ草とかいう薬草の採取で、3人で資料を探し、生えてる場所や運ぶ上での注意なんかを調べた。

 こういうところをきちんとやらないと、一端の評価はしてもらえないんだって、ミュージィが言ってた。

 頭を使うのは、ミュージィやイリスの役目で、単純なあたしは、力仕事が担当だ。

 資料を探す時は、タイトルだけでアタリを付けて運び、ミュージィに調べてもらってる。


 今回、試験官になったのは、フォルスさんとレイルさんっていう、6級になった冒険者だ。

 登録から1年半掛からずに6級になった凄い人たちだそうだ。

 剣士と魔法士のコンビだって言ってたけど、今日はフォルスさんという剣士の人だけがついてきてる。下調べだけだから、1人で十分だってさ。

 フォルスさんは、いい人だ。

 いかにも鍛えてますって体に、知的な雰囲気。

 あたしたちの試験官として、つかず離れず、見守ってくれてる。

 一切の助言をしないで、あたしたちがどう動くかを優しく見つめる目に、少しドキドキしたのは内緒だ。

 一通り調べ終わった後、フォルスさんと別れて買い出しに行った。荷物持ちここからがあたしの仕事だからね。



 翌朝、少し早めに門で待っていると、約束どおりの時間にフォルスさん達がやってきた。

 時間に正確なのも、いかにもデキる人って感じだ。

 フォルスさんの相棒のレイルさんに初めて会って紹介してもらったけど、レイルさんは嫌味な人だった。


 「僕らのことは気にしないで、自分達だけだと思って動いて」


 あたしより背が低く、華奢で、いかにも魔法士という雰囲気。

 しかも、余裕なのか何なのか知らないけど、これから泊りがけで採取に行くってのに、猫なんか連れてる。あたしたちをバカにしてるんだろうか。

 フォルスさんみたいないい人が、なんでこんなやな感じの人とつるんでるんだろう。



 試験官は、試験の間、手も口も出さないんだそうで、少し後ろからついてくるだけだ。

 食事もあたしたちとは別に食うし、寝る時も離れてた。不寝番はあたしたちだけでやっててくれって。フォルスさんたちも自分達で勝手にやるからって言ってた。

 2人でどうやるのか興味はあったけど、ちょっと離れたところにいるからわからなかった。




 翌日、ミツバ草を見付けて採取していたら、見張りしてたミュージィが声を上げた。

 なんか、猪みたいな魔獣がこっちに突っ込んでくる。

 ミツバ草が踏まれないようにどかして、あたしとイリスで迎え撃つ。

 速くて、力も強い。

 見たことない魔獣だ。この森にこんなのがいるなんて話は聞いてないよ!

 斬りつけても、全然刃が通らない。なんて硬さだ!

 あたしもイリスも、ほとんど傷を付けることもできないで、吹っ飛ばされて。

 ちょっとヤバい…と思った時、レイルさんがあたしたちと猪の間に飛び込んできた。

 あっさり猪を斬り裂いてる…え!? こっちが剣士なの!?

 魔法の矢みたいなのが飛んできて、猪に刺さる。ほとんどはすぐ落ちたけど、猪はそれなりに痛かったらしくて、フォルスさんのいる方を向いた。そうすると、またレイルさんが無防備な後ろから斬りかかる。すごい連携だ。何も合図してないのに。

 レイルさんは、もの凄い速さで何度も斬りつけ、ほとんど1人で猪を倒してしまった。

 これが6級冒険者の実力なんだ。あたしたちじゃ、手も足も出ない。

 あたしも、速さにはそこそこ自信があったけど、比べものにならないくらい速かった。

 フォルスさんの魔法も確かにすごかったけど、猪を倒したのは、レイルさんの剣だった。

 あ、いや、うまく牽制してもらうと戦いやすいのはわかるし、フォルスさんの援護魔法もすごかったんだけど。

 ミュージィの弓の腕だと、あたしたちをうまく避けて魔獣に当て続けるなんて芸当はできないし、魔法士がいるのは便利なんだなって思う。

 けど。

 やっぱり、レイルさんの速さ強さは、すごすぎる。

 あたしやイリスが何度やっても斬れなかった猪の体を簡単に斬り裂く剣筋。

 きっと、あの速さあっての斬れ味なんだろう。

 あの技、教えてもらえないかな。




 幸い、ミツバ草は無事だった。

 帰り道はフォルスさんたちと話をしながら歩くことになったんで、レイルさんに話しかけてみたんだけど、てんで相手にしてもらえなかった。

 あたしたちは猪を倒せなかったけど、フォルスさんが言うには、本当はあんな魔獣はこの森にはいないはずだから、試験は合格できるだろうってことだった。そうだと嬉しい。




 3日後、ギルドに呼ばれた。

 昇級した!

 昇級祝いに、3人で酒場に繰り出したら、知らないおっさんまで奢ってくれた。

 なんでだか、猪が出たことを知っていて、レイルさんがどうやって倒したかを訊いてきたから、あの速さと強さを聞かせてやったら、すごい喜んでた。

 フォルスさんの氷の矢とかって魔法のことも話してやったら喜んでたけど、やっぱりあの2人って有名人なのかな。





次回予告

 いるはずのない牙猪の出現に、フォルス達は調査と討伐を依頼された。

 2人は森の中で見たものは、魔素溜まりだった。

 だが、何かがおかしい。

 次回「ごつひょろ」5話「魔素溜まり」

 どうも最近、運が悪い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る