2-4 新たな魔狼

 トカゲ退治の後、途中で一泊して街に戻り、セシリアのところに顔を出した。


 「トカゲ退治、終わったぞ。

  ボスらしき奴の首と、魔石だ。繁殖期だったようで卵もかなりあったから、全部焼いてきた」


 「お疲れ様でした。

  魔石はどうされますか?」


 「5つ手元に残して、後は買い取りで頼む」


 「わかりました。

  ところで、森の魔狼なんですが…」


 「もう話が出るってことは、ほかにもいたのか。

  で?」


 「フォルスさんの予想どおりだと思います。

  魔狼がもう2頭いました。

  1頭には深手を負わせたそうですが、もう1頭はほぼ無傷、調査に当たったパーティーは負傷者が出たため撤退しました。

  まだ、上で数名が状況の説明中です」


 「説明中なのに、よくそんなに詳しい話を知ってるな」


 嫌な予感がする。というか、嫌な予感しか・・しない。


 「途中でフォルスさんが戻ってくる可能性があったので、事前に簡単に説明を受けました。

  魔狼の第一発見者兼討伐者として、参考意見を伺いたいそうです」


 やっぱりか。

 そりゃまあ、気持ちはわかるけどな。

 俺が嫌そうな顔をしているのがわかったんだろう、セシリアは畳みかけてきた。


 「支部長からの指示ですので、ぜひお願いします」


 ちらりとレイルを伺うと、「嫌だ」と顔に書いてある。連れて行ったら悶着を起こすことが目に見えている。

 嫌な板挟みだ。


 「俺だけでいいな?」


 仕方ない。ここは俺が話をするしかないか。


 「もちろん、フォルスさんが入っていただければ問題ありません。無駄に場を紛糾させられても困りますし」


 セシリアがレイルに嫌味を言っているが、レイルも行きたくないもんだから涼しい顔で流している。


 「レイル、場合によっては…」


 「条件はフォルスに任せる。わかってるよね」


 一応レイルに確認すると、丸投げされた。

 レイルとしては、よそのパーティーと合同になりさえしなければ、最悪受けてもいいというわけだ。

 よそと合同にすると、何かと行動に制限が掛かるからな。


 「んじゃ、行ってくる。晩飯、付き合えよ」


 「わかった」


 結果報告は晩飯の時、ということにしてレイルと別れ、俺はセシリアに連れられてギルド3階の打ち合わせ部屋に向かった。


 「支部長、フォルスさんがお戻りになりましたので、お連れしました」


 セシリアが呼び掛けるとドアが開き、俺達は中に通された。

 セシリアは俺達付きのマネージャーだから、大きな仕事の話をする時は大抵一緒に入ることになる。

 室内には、支部長と、鎧を着けた男とローブの男が1人ずつと、そのマネージャーらしき女がいた。男2人が、新しい魔狼を見付けたパーティーのトップだろう。名前はイアンとノインだそうだ。


 「仕事上がりにすまなかったな。

  聞いたと思うが、森で新たな魔狼が2頭確認された。

  発見されたのが2頭というだけで、他にもまだいる可能性がある。

  なぜいるのかという理由の解明も必要ではあるが、取り急ぎ脅威の排除を優先しなければならん。

  君は先日、魔狼の討伐に成功しているからな。意見を聞きたい」


 支部長は、かつてやり手の冒険者だったらしく、現実的な思考ができる人だ。

 よその支部では、現場を知らずに無茶なことを言い出す支部長なんかもいるらしいから、そういう意味でこの街はありがたい場所ではある。


 「意見と言われましても…。

  魔狼は、動きが素早く、氷の魔法を使えます。俺達の時は、氷の矢を一度に4本使いました。

  他の攻撃方法については未確認ですが、村の怪我人の中に、魔狼に引っ掻かれてひどい凍傷を負った者がいましたので、恐らく牙や爪による攻撃には氷の魔力が乗っているのでしょう。

  俺にわかるのは、そのくらいです」


 こういうところでは情報の出し惜しみは厳禁だが、一方で自分の戦闘能力の全てを教えるのはバカのすることなので、敵の情報だけを包み隠さず答える。もちろん、推測による部分は推測だと断っておく。


 「倒すための方策はあるかね」


 「まず、先に見付けて先制攻撃が必須ですね。

  先手を取られたら、ちょっと勝てないでしょう。

  それと、炎の魔法を使える魔法士がいること、魔狼と正面から当たれる前衛がいて魔法士を守り抜けること…でしょうか。

  同時に2頭を相手にするなら、分断して戦うべきでしょうね」


 言ってしまえば、当たり前の正攻法でしかない。

 罠の類を上手く使えば他にもやりようがあるかもしれないが、あいにく俺はそっちの知識はさっぱりだ。


 「奴らの氷の矢をどうやって防いだ?」


 イアンと名乗った鎧を着けた男の片方──多分、調査に当たったパーティーのリーダーだろう──が口を開いた。

 今度の奴も、やっぱり氷の矢を使うんだな。


 「あくまで俺達が戦った奴の話だが、氷の矢の生成から発射までに3秒くらい掛かる。

  生成中に有効打を浴びせると、矢が消える。

  発射してから避けたりは難しいだろうが、矢の生成が始まると同時にこちらが攻撃すれば、食らわずにすむ」


 俺が答えると、ノインが叫んだ。


 「魔獣より先に魔法を撃つなんて、無茶もいいところだろう!」


 気持ちはわかるが、実際俺達はそうやったんだから仕方ないだろう。俺に文句言われても困る。


 「別に魔法士でなくても、前衛が斬るでもいい。奴らが魔法を使う隙を与えずに攻め続ければいいんだ。

  俺達は、間断なく炎の矢を撃ち続け、剣で斬り続け、魔狼に氷の矢を使う隙を与えなかった、それだけだ。ほかにやりようがあるかもしれないが、俺は思いつかない」


 「それでは魔法士がもたないだろう!」


 「だから、短期決戦を挑むしかなかった。

  俺達は、野犬退治の依頼で出掛けた先で魔狼に出会でくわしたんだ。ゆっくり考えてる暇なんかなかったんだよ」


 「その点は間違いありません。

  当初は、野犬退治と怪我人の治療という依頼でした」


 セシリアが補足してくれる。

 こういう説明のために同席しているんだから、当たり前と言えば当たり前なんだが、助かる。


 「では、今回の魔狼が先日の個体と同程度だったとして、君達なら討伐可能かね?」


 支部長に訊かれたが、そんなもん、訊くまでもないだろう。


 「無理でしょうね。

  相手が2頭って時点で無理です。

  1頭相手にやっと勝ったってのに、2頭相手じゃどうにもなりません。2人とも死にます。

  1対1で勝てるような相手じゃありませんよ。

  2頭相手にして全員生還できたってんなら、1頭相手なら楽勝でしょう。

  当たるなら、今回のパーティーより上でないと」


 今回惨敗したパーティーについてもフォローしておく。俺達の方が強いってわけじゃないってな。そうしとかないと、本当に俺達だけで行かせられかねない。


 「では、君達とほかのパーティーの合同なら?

  戦力的な問題はクリアできるだろう?」


 「それも難しいでしょうね。

  俺とレイルは1年以上組んできて、お互いの呼吸がわかります。それを前提に連携しているわけです。

  たとえ技量が俺達より上でも、連携の取れない相手では、お互い足を引っ張り合うことになります。下手すりゃ同士討ちです」


 俺達はまだ7級だ。指名依頼の強制力はない。

 5級以上になると、支部長の判断で強制的な指名依頼をすることができる。

 正当な理由なくこれを拒否すると、冒険者資格の剥奪や預かり金の没収などの過酷な制裁が加えられる。

 6級以下でも、緊急時には強制依頼がありうるが、魔狼が街に迫っているってんならともかく、森の中にいるのをわざわざ襲いに行くんじゃ、緊急性が足りないだろう。

 空を飛ぶ魔獣ってんなら、森にいるうちにってこともあるだろうが。


 「そもそも魔狼がその2頭だけと限らない以上、他にもいた時のことを考えて、十分な戦力を送るべきです。

  今俺達が行ったとして、もう1頭いました、全滅しましたじゃ、目も当てられませんよ」


 「言いたいことはわかった。

  だが、調査させるにしても、やはり戦力は必要だ。

  戦闘は勝てそうな状況なら、ということで、魔狼の住処と数の調査ということなら受けてくれるか?」


 「あくまで調査目的、戦闘はこちらの判断、森の外で野営しての明日から5日間、ということでしたら、報酬次第で」


 「わかった。細かいことは、セシリアと詰めてくれ」


 こうして、俺達の次の仕事が、強制的に決まった。





次回予告

 魔狼はもう2頭いた。

 調査ということで依頼を引き受けたフォルスは、2頭を分断して、手負いの方を倒す。

 そして、残る1頭の討伐に向かったパーティーが壊滅し、フォルス達は再び魔狼退治に向かう。

 次回「ごつひょろ」3話「再び、魔狼と」

 魔狼の死体から出てきたのは…。

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