2-3 トカゲの洞窟

 朝、目を覚ますと、目の前にレイルの顔があった。


 「んあ? どうかしたか?」


 「別に? 起こそうかと思ったんだけど、自分で起きた」


 「ああ、そうか」


 さぁ、さっさとトカゲの巣を潰して帰るぞ。





 「あの洞窟だな」


 「中に立て籠もられると面倒だね。

  一発放り込んで、引っ張り出す?」


 「乱暴だが、有効な手だな」


 リザードマンなら、巣に生きた人間がいるってこともないから、気にせず攻撃できる。

 これがオークの類だと、繁殖用に女を捕らえてることがあるから、迂闊に魔法を放つわけにはいかない。


 「よぉし、んじゃ、いっちょ派手にいくか」


 ちょっと広めの結界を張って、その中の魔素を俺の周囲に集中させる。

 トカゲ程度が魔素の動きに気付いて警戒するとも思えないが、念のためだ。

 そして、集めた魔素の一部を使って、ちょっと大きめの火の玉を作る。洞窟の中を進んでいけるが、洞窟内で避けるのは難しいって大きさが理想だ。

 ある程度の大きさになったところで撃ち出し、なるべく穴の奥の方まで届くよう誘導して着弾させた。

 弾けた火の玉は、周囲を焼くように広がって、運が良ければトカゲの1匹や2匹は倒せるだろう。

 俺は結界を解いて、火の玉が通った後の魔素を探索して穴の中の様子を探る。距離があるから正確なところはわからないが、動かなくなったトカゲが3匹、外に出てこようとしているのが10匹くらいってとこか。


 「10匹くらい出てくる。凍らせたら突っ込め」


 「わかった。ミスんないでよね」


 もう一度、今度は結界を張らずに魔素を集める。さっき集めた魔素はまだ周囲に残ってるから、簡単だ。

 トカゲが洞窟から出てきて俺に向かってくるのを見ながら、魔力を練る。練りながら、再度洞窟の中を探ると、飛び出してきた連中は、もうちょいで全員洞窟の外に出てくる。そこが勝負だ。


 「凍れ」

 トカゲの周囲を冷気で満たし、一気に凍らせる。大した厚みの氷じゃないが、湿地だから、トカゲ共の足は泥に埋もれたまま凍り付き、身動きできなくなった。中には、勢い余って足が千切れて転んだきり立てなくなっている奴もいる。


 「ほい!」


 そんなトカゲの群れに、レイルが突っ込む。

 剣を横に突き出した状態でトカゲの脇を通り抜けると、トカゲの頭がポンポンと宙に飛んだ。

 さすがに一度で全滅ってわけにはいかなかったが、レイルは反転して残りも片付けた。

 最後に、立ち上がれずにいた奴の首を落とす。

 これで、外に出てきた奴は全部片付いたな。

 入口の近くまで行って、もう一度中を探索すると、まだ数匹いるらしき反応がある。


 「まだいるな。狭いからあまり速度を生かせないだろうが、いけるか?」


 「誰にもの言ってんの。ほら、行くよ」


 さすがにレイルも、剣を提げたまま慎重に歩いている。


 「そこの左に2~3匹だ」


 「ん」


 レイルは、角を曲がると同時に走り、すぐ戻ってきた。


 「ん~、奥は行き止まりっぽいなあ。他の道は?」


 「あっちに行けば、もうちょいいる。…数がよくわからないが、広い部屋になってるようだから、親玉かもしれん。

 俺も援護する必要があるかもしれんから、今度は一緒に行こう」


 「…足、引っ張んないでよね」


 ちらっと俺を見て、ぶっきらぼうに言うレイル。

 まったく、素直じゃない奴だ。

 普段前に出ない俺のことを心配してるくせに、口から出るのは憎まれ口ばかり。

 まぁ、だからこそ俺と組んでるわけなんだが。


 「足引っ張ったら危なくなったら、フォローしてくれよ」


 へらっと言ってやったら、こっちを見もしないで


 「バッカじゃないの!?」


と言ってきた。照れてやがる。


 まぁ、口はともかく、命張ってる仕事なんだ、もちろん真剣にやるに決まってるんだが。


 今度は、レイルも突っ込んで行かないで慎重に部屋に踏み込む。

 俺もそのすぐ後ろについて入り、魔素探知の範囲を部屋の中に絞ることで精度を上げる。

 目に見える範囲に8匹か。正面にいる一際大きい奴がここのボスだろうか。

 そいつの周囲に3匹と、部屋の中央辺りからこっちを睨んでるのが4匹。

 はっきりはわからないが、反応は10匹分くらいあったはずだから、少なくとも2匹は隠れてるはずだ。


 天井に1匹、ボスの背後に1匹、正面の4匹の後ろの足下にも1匹いる。

 素早く魔力を練り、天井の1匹に炎の矢を飛ばし、同時に

 「レイル、迂闊に動くな! 正面4匹の前後に落とし穴があるかもしれん。穴ん中にもう1匹だ!」

と叫んだ。

 どこに穴があるかまでは、俺の探索ではわからない。下手に踏み込むと、罠に掛かる危険がある。正面の4匹が俺達に向かってこないのが証拠だ。連中と俺達との間に何かあるに違いない。

 こういう時のために、俺がついてきたんだ。

 レイルが俺を庇うように前に立ち、俺は正面の4匹に向かって炎の矢を8本、飛ばした。

 俺達が動くのを待ってたであろう4匹は、突然の魔法に慌てたようだが、もう遅い。1匹2本ずつ矢を受けて崩れ落ちた。

 さて、こうなると穴の中の奴が出てくるのを待ちつつ、後ろの奴らを攻撃した方がいいな。

 前衛4匹をやられて、ボスの護衛らしき3匹が向かってきた。レイル、連中が通ったルート見とけよ。

 走ってくる3匹のうち2匹と、奥のボスに、それぞれ2本ずつ炎の矢を放つと、全て命中し、前の2匹は倒れた。


 残る1匹は俺達の前まで来たが、あっさりレイルに斬り倒された。

 さて、ボスは…手傷は負ったが生きてるな。

  まだ穴ん中のが出てこないところを見ると、俺達が通ったところで、下から襲って来るつもりか。

 折角だから、出てこないまま退場願うとするか。

 穴には蓋があるようだし、炎の矢は効きが悪いだろう。ここは土の槍かな。

 足下の土が盛り上がって槍の形になって放物線を描いて飛んでいき、伏兵が隠れている穴を真上から貫いた。

 探知してみると、どうやら倒せたようだ。

 伏兵が倒されて焦ったのか、ボスがこっちに向かってくるが、それも炎の矢をもう3本放って仕留めた。


 あと1匹。さっき、こっちまで来た奴が通った道を辿って奥へと進む。勿論レイルが前だ。

 奥には、卵と、それを守るように覆い被さっている小柄なトカゲ…メスか? もしかしたらボスのつがいだろうか。

 トカゲでも、自分の卵とか大事にすんのか。

 人間でも、子供を捨てる親がいるってのに。

 とはいえ、この卵が孵ったら、またトカゲが増えちまう。


 「トカゲごと焼くか」


 「任せるよ。母親斬るのはいい気分じゃないし」


 俺は、弾けないタイプの火の玉で、トカゲごと卵を焼き尽くした。


 「魔石と、ボスの首だけ回収するか」


 穴の底に隠れてた奴は面倒なのでやめておいたが、他のはひととおり回収して引き上げた。

 トカゲの魔石は、親指の爪くらいの小さなものだった。

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