2-2 月光浴

 俺はレイルとリザードマントカゲの巣に向かっている。

 往復で2泊3日のつもりではいるが、一応もう1日分は余分に携帯食を持ってきた。

 俺達の場合、荷物は基本、俺が背負うことになっている。

 前衛のレイルは身軽にしていなければ困るというのと、俺の方が体格がいい分基礎体力があるっていうのが理由だ。

 レイルが異様に速く動けるのには、もちろんタネがある。


 これが、俺達が他の奴と組みたくない理由の大半を占めるんだが、レイルは剣士でありながら魔法を使える。

 俺達魔法士が使う魔法とは少し違うが、それでも同じような効果を発揮できるんだから、やはり魔法だろう。誰に習ったのか、レイルは教えてくれない。

 レイルの場合、治癒魔法に至るまで剣を媒介にして使うが、唯一剣を媒介にしていないのが自分の体に掛ける魔法だ。

 特にレイルは身体強化を得意としている。

 一応、魔法士も身体強化の魔法は使える。だが、戦闘中のほんの僅かな時間のことだ。

 その点レイルは、1日中ずっと使っている。

 俺が魔力視でレイルを見ると、常に全身が光っている。つまり、常時全身に魔法を掛けているわけだ。

 普通なら、こんな風に1日中魔法を使い続けることなどできるはずがない。

 俺なら、あっという間に息切れだ。

 この前の治癒魔法といい、レイルの魔力変換は常識外れだ。

 まぁ、普通に考えて、レイルの体格であれほどの体力があるわけがないから、常に身体強化の魔法を使っているというのは納得できる。

 とはいえ、こんなにいつも魔力を使っていては、普通だったら魔力の使いすぎで逆にへばるはずなんだが、レイルはぴんぴんしている。

 それなりに長い付き合いになるが、レイルがへばっている姿を見たことなど、たった一度しかない。

 あるだけまだマシ、という気になるのがなんとも言えないが。

 俺が息を止めて走るように魔力変換しているのに対し、レイルは“息をするように”やっている。

 これが才能の差というやつなんだろう。




 だが、レイルは基本的に自分の体以外には、剣を介してしか魔法を使えないから、後衛としての俺を必要としている。

 レイルの魔法の秘密を知っていて、なおかつ、それなりに魔法を使える俺を。

 レイルがやらかしたあれこれを、“魔法士がやった”という形で隠れ蓑にできる俺を。

 まぁ、悪態ばかり吐いているが、レイルはいい奴だ。信用もしてる。

 仕事でもきっちり役目をこなしてくれるんだから、文句なんざありゃしない。

 レイルの後ろを走りながら、思う。

 それにしても、やっぱりあの体格で俺と同等以上の体力ってのは、反則だよなぁ。




 もうじき森だが、夜に魔物の巣を攻めるなんてバカバカしいので、途中で1泊する。

 まぁ、1泊というか、有り体にいえば野宿だ。

 携帯食を食い、結界を張って寝る。

 2人組の俺達にとって、不寝番なんてのは、自殺行為だ。

 魔法士にとって──レイルは剣士だが──睡眠不足は大敵だ。魔力を練る力が確実に落ちる。


 そんなわけで、俺達が野営する時は、簡易な結界を張っている。

 魔素の動きで一定空間内に何かが入り込むと反応する結界。

 これがあるお陰で、俺達はちょっとした遠出くらいなら気にしないで眠れる。

 むしろ、信用できないパーティーとの共同任務の方が安心できない。


 「さて、んじゃ結界張るぞ」


 「待った。今夜は満月だから、少し月光浴しよう」


 レイルはそう言うと、上半身裸になって横になった。

 レイルが満月の夜にこういうことをするのはいつものことだが、普段は宿の窓辺で椅子に座っているから気にならないんであって、外で横になってやられると、呆れが勝る。

 まぁ、男同士だし、一緒に風呂にも行ってるんだから、レイルの裸を見たってなんということもないんだが、うっとりと横になっているレイルの姿を、レイルが引っ掛けてくる女達に見せてやりたいもんだとイタズラ心が起きてくる。


 「いつも思うんだがな、それ、なんか意味あんのか?」


 「この魔素の動きを感じないのかい? 満月の夜は魔素が活性化するんだ。それをこう、全身に受けることで、魔素を扱う能力が鍛えられるんじゃないか。

 そんなことも知らないから、君は魔法をうまく使えないんだよ」


 レイルはバカにしたように笑うが、そんなことで魔力変換が上手くなるなんて話、聞いたことがない。


 「ほお? そんなやり方で魔法が上手くなるなら、お前はこの1年でずいぶん上達したんだろうなぁ? 俺、もう少し楽していいか?」


 「そんな劇的に変われるわけないだろ。日々の努力が大切なんだよ」


 「日々っつうか、月々だろ? 1年掛かってあんま変わらないってんじゃ、気が長すぎんだろ」


 「そんなことは、僕より魔法を上手く使えるようになってから言ってほしいね。魔法士のフォルス君?」


 「抜かせ。飛ばすのは苦手なくせに」


 「そのうち、君より強烈なのを使ってやるよ」


 「なんでもいいが、風邪ひく前に服着ろよ」




 レイルが気が済むまで月光浴したので、結界を張る。

 結界なんて言ってもご大層なもんじゃない。

 一定範囲内に魔素を集めて動かないようにするってだけのもんだ。

 元々は自分の周囲に魔素を集中させて、魔法を使いやすくするのが目的の魔法の応用で、生き物が入れなくなるとかいう機能はない。

 だが、ある程度のサイズの生き物が結界内で動くと、魔素に流れが生まれる。

 これは、魔法を使える奴かどうかにかかわらず、生き物の存在が魔素に影響を与えるせいだ。

 結界を張った者にはそれが感知できるから、外敵の侵入に対応できるってわけだ。

 細かい欠点は色々あるが、不寝番がいらないってだけで、十分有用だ。


 そんなわけで、俺達は野営する時は大抵結界を使っている。


 「んじゃ、さっさと寝ようぜ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る