2話 肩慣らしにはリザードマン退治で

2-1 トカゲ退治でもしとくか 

 この前の魔狼らしき魔獣退治から3日が経った頃、俺達はセシリアに呼び出された。


 「大変お待たせしました。

  先日の魔獣の正体が判明したので、ご説明と追加報酬のお支払いのために御足労いただきました。

  結論から言いますと、やはりあれは魔狼でした。

  かなり脅威度の高い魔獣です。お2人に倒していただいて助かりました。

  魔石の大きさからしても、成獣でかなりの力を持っていたと思われますので、本来なら2人組で倒せるような強さではなかったはずです。

  いえ、もちろんお2人の功績を疑うわけではなく、むしろお2人の戦闘能力評価が上がったというところなのですが。

  ともかく、貢献度がプラスと、こちらが追加報酬になります。

  それと…魔石の方はいかがされますか? お返しでも、買い取りでもいたしますが」


 買い取りでいいな? とレイルの方を見ると頷いていたので


 「買い取りで頼む」


と答えた。

 魔石は、簡単に言えば魔力の貯蔵庫だ。

 魔獣自身が死んでも、魔石に残っていた魔力は固定されていて、魔法士なら取り出して使うことができるし、空になってもまた自分で魔力を込めることもできる。

 自分で魔力を込めた魔石は、魔力変換なしに魔力を使うことのできる便利な道具となるから、魔法士には魔石を売りたがらない者も多い。

 とはいえ、だ。それはポケットに入るサイズでないと難しい。

 魔狼の魔石は大きすぎる。

 たしかに容量もでかいだろうが、でかいということは高く売れるということでもあるから、売っちまった方が得だ。

 買い取りの場合、現金でもらうこともできるし、ギルドに預けておくこともできる。

 現金だとかさばるし重いし、盗まれる可能性もあるしってことで、まとまった額はギルドに預けておくことができる。

 預けた金は、ギルド手帳に職員が金額を書き込んでギルドの印を押して証明する。

 手帳の名義人だけが返金要求できるので、盗まれる心配もないし、ギルド側でも同じものを保管しているから、手帳をなくしても返金してもらえる。もっとも、その場合は手数料を取られるらしいが。

 この預かり金制度でインチキしようとすると、ギルドへの重大な敵対行為と見なされて抹殺指令が出るそうだ。話に聞いただけだが、本当にそれで始末されたギルド職員がいたらしい。


 「それでは、預かりの手続を終了しましたので、ご確認ください」


 セシリアから手帳と控えをそれぞれ示されて、俺とレイルはそれぞれの内容を確認した。

 俺達は組んで仕事をしてはいるが、懐具合は同じじゃない。

 遠征に必要な物なんかは半額ずつ出し合うが、個人の買い物なんかは自分で出すからだ。

 俺が娼館に行く時なんかもそうだ。




 一連の手続が終わり、帰ろうとした俺達だったが、セシリアに呼び止められた。


 「あの、今回魔狼が森にいた理由や、ほかにいないかなどの調査をすることになっているのですが、お2人にお願いできませんか?」


 おっと、やっぱり来たか。

 そういう話が来るだろうってことは、レイルと予測していた。


 「そいつはご免だな。

  俺達は2人組だ。この前は、先に魔狼を目撃してたから探し出せたんであって、広い森の中から、いるかどうかもわからん魔狼を探すなんて手が回らない。

  それに、いたとして、勝てる保証がない。

  前回は、こっちから奇襲を掛けられたから勝てたようなものだからな。

  もっと戦力の揃った大人数のとこを当たってくれ」


 レイルが口を挟むと無駄に煽りそうだったので、口を挟む暇を与えず一気にまくし立てた。

 セシリアは呆気にとられていたが、断られるのは織り込み済みだったようで、あっさり引き下がった。

 まあ、普通に考えて、たった2人で森を探索なんて、無茶もいいとこだからな。




 魔狼と戦ってからまだ3日で、俺の疲労は回復していなかったので、その日はそのまま帰った。




 更に3日後、軽く肩慣らしの依頼を受けるため、レイルと物色に来てみた。

 軽めに、8級向けの依頼がいいだろう。

 8級以下は、ギルドの壁に張り出された依頼票の中から仕事を探すのが主だ。

 本来なら俺達はセシリアから斡旋してもらうのだが、この前仕事を断ったばかりだし、とりあえず自分達で物色しようというわけだ。


 「あんま面白いのないね」


 「だったら魔狼探しにでも行くか? セシリアが泣いて喜ぶぞ」


 「冗談じゃない。あの陰険眼鏡が泣いて悔しがるなら、行ってもいいけど」


 「…悪い、何したらセシリアが悔しがるか、想像もつかん」


 「あいつの考えることがわかったら天才だよ」


 バカなことを言い合いながら依頼が貼ってあるボードを眺めたが、残念ながら面白そうなものはない。


 「あんま魔力使わないですむのがいいな。このリザードマンが住み着いた湿地なんかいいんじゃないか?」


 「それって僕がドロドロになるパターンだよね。

  もしかして、ケンカ売ってる?」


 「湿地の真ん中で戦えばドロドロだろうけどな、湿地をトカゲ共ごと凍らせたら、さっくりスパスパいけるんじゃないか?」


 「フォルスが凍らせんの? ならいいや。

  凍らせ損ねたら、責任取って吹っ飛ばしてよね」


 「へいへい」


 この時期、リザードマンは繁殖期で、大量に卵を産む。それが一斉に孵化すると爆発的に増えるので、リザードマンの巣を潰す仕事が必ず出てくる。

 依頼の紙を持ってセシリアのところに行くと、セシリアは恨みがましい目で俺達を睨んできた。


 「はあ。リザードマン退治ですか。

  随分、気楽な依頼ですこと。はい、受注しました」


 「なんだよ。魔狼探しは受け手が見付からないのか?」


 「いえ、一応受けてくれたところはあったんですけど。

  大所帯だと、頭割りの金額が下がるので、そちらのマネージャーから嫌味を言われまして」


 「また面倒な話だな」


 「どうせ見付けたら戦わなきゃならないんだから、報酬はずめばいいのにケチるから」


 「レイルさんが差額を持ってくださるなら、いくらでも高くするんですけど」


 「こんなから話ふられたんじゃ、いくらもらっても受けたくないよねえ」


 「おいレイル、やめろ。セシリアも突っかかるな。子供じゃないんだから。

  とりあえず魔狼おおかみ退治は売れたんだろ? 俺達は、軽く肩慣らししてくるからな」



 そうして、俺達はリザードマントカゲの巣に向かった。

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