再び、魔狼と
3-1 再び、森へ
森に現れた魔狼。
俺達が倒した奴の他に、イアンって奴のパーティーが遭遇したのが2頭。1頭は手負いの状態、もう1頭は無傷で、まだ森にいる。
ギルドとしては討伐実績のある俺達に片を付けてほしいらしいが、あいにく1頭でもギリギリだ。まして1頭は手負いというが、実際のところどれほどの傷なのかもわからない。そんなのを相手にするのは、リスクが大きい。
とはいえ、だ。
魔狼がその2頭だけだと仮定すると、1頭なら倒せる俺達に話が来るのは仕方のないことだろう。
2頭相手に死者を出さずに撤退できたあのパーティーから無事だった連中を加えれば、1頭ずつならなんとかなるだろうという読みが成立するのもわかる。
連携できなくても、引き離して1頭ずつにできれば、勝てる可能性は高い。
それはわかるんだが。
俺達、いや、レイルには秘密が多い。
俺達の戦闘を他人に見られるのは、得策じゃないんだ。
レイルが魔法を使えることを知っているのは、俺だけ。セシリアにも教えていない。
この状態でよそのパーティーなんぞ連れて行ったら、騒ぎになりかねない。
魔法を使える剣士なんて、レイル以外に聞いたことがないからな。
俺みたいに剣も多少使える魔法士だって珍しいが、魔法を使える剣士となると、珍しさの度合いが違いすぎる。
そうなると、よそと共同でやるより、多少危険でも俺達だけでやる方がマシなんじゃないかってことになる。
一応、連携のことを理由に、よそと共同では嫌だと言ったわけだが、依頼内容をうまく誘導しないと、俺達に不利な依頼にされかねない。
「で、依頼はどうなるんだ? 内容次第じゃ断らせてもらうが」
セシリアと2人きりになるとすぐ、予防線を張った。
「どうしてそんなに乗り気でないのか、理由を伺ってもよろしいでしょうか。
実力を高く評価されることは、冒険者の方にとってはいいことなのではありませんか?」
「評価だけならな。
過大評価に基づいて無茶な依頼を出されると、命がいくつあっても足りないんだ。
今回の件について言えば、条件が悪すぎる。
1頭でもやっと勝てたって魔狼が、とりあえず2頭、そのうち1頭は半端に傷付いて狂暴になってる可能性が高い。しかも、まだほかにもいるかもしれないときてる。
たとえばだ、ほかにもう1頭いて、森に入ったら3頭に囲まれたとする。今回のパーティー全員と俺達を合わせても、勝ち目はないだろう。
分が悪すぎて、賭ける気にもならないな。
探索だけだとしても、戦闘を避けられる保証がないんだ。
依頼料が危険に見合う額でなけりゃ、受けられない」
「基本で300ジル。1頭討伐するごとに500ジル追加。3頭目以降、1頭発見ごとに50ジル追加でいかがです? もちろん、魔石は別扱いで結構です」
「随分と太っ腹じゃないか。セシリアの権限でそこまで言っちまっていいのか?」
1頭倒すと、魔石1個と同じ500ジルか。魔石を取ってる時間がないだろうから、その分ってとこか。
いきなり譲歩してくるとは思わなかった。ある程度出来高払いとはいえ、かなりの好条件だ。
「正直言って、私の裁量で出せる最高額です。
フォルスさんでなければ無理だと私の勘が告げているのです。
どうか、これで受けていただけないでしょうか」
「勘、か。俺はそんなものアテにはしないんだが、レイルの奴は高く評価していたからな。
確認するが、依頼内容は、魔狼のねぐらの位置確認と、ほかにも魔狼がいないかの調査。状況に応じて戦闘もありうるが、特段戦う必要はない。
討伐した場合は、手負いだったか否かにかかわらず1頭ごとに500ジル上乗せ、と。
間違いないな?」
「間違いありません」
「わかった、受けよう。明日、出発する」
「よろしくお願いします」
約束の店に行くと、レイルはもう飯を食っているところだった。
俺も注文してから、レイルに事の次第を聞かせてやった。
「そんなわけで、明日、俺達だけで森に行くことになった。
住処の確認と、ほかにいないかの調査だ。もちろん、倒せば金になる。
基本は、結界張りながら移動して、あわよくば手負いにトドメ刺してってとこか。
不意討ちで倒せるとおいしいんだがな」
「まあ、受けてくるとは思ってたけど。
予想を裏切らない男だね。
僕らだけでやれるようにしてきたことは、褒めてあげるよ」
「そりゃどうも。
てなわけだから、明日は早いぞ」
「あいよ」
とりあえず、ノインって奴の話も加味すると、魔狼は魔力の動きには相当鋭い。
が、目にはあまり頼ってないようだし、結界張りながら風上を移動してりゃ、見付かりにくいだろう。
魔力や魔素の流れを感づかれないようにすれば、先手が取れそうだな。
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