パンダ人間になる
狸千人が言った。
「パンダ、ワシには分かる。ペコペコ町の飲み屋街。そこに、心の優しい板前があるのじゃ。お主は偶然そやつに話しかける。働くところが無くて困っておると。働かせてくれと、頼むのじゃ。」
「はい!頑張るパンダ!」
そしてパンダは今、、、、、
「半田です。よろしくお願いします!」
今、パンダは人間達の住む街の中にある日本料理のお店にいる。
尖った空気、尖ったオーラを放つ人達。
パンダの方を見ながら誰も手を止めない。忙しそうな様子だ。
「話は聞いたよ。君、家出してきたんだってね。取り敢えず一週間体験で働くって聞いてるけど大丈夫?」
「はい!そうです。」
「今、ちょっと結構忙しくてね。人手が欲しいんだ。取り敢えず洗い場に入ってくれる?」
「はい!」
人間と、喋っちゃった!!
僕、人間と会話してるよ!!
パンダは洗い物を教わりながら、どきどきとした。普段動物で、パンダで、アニメを観てはゴロゴロし、笹の葉やうさぎの料理を食べているパンダが人間として働いている。
「半田くん、遅いね!もうちょっと早くお願い!」
「はい!」
パンダなんだ、大目に見てくれ、と思いながら手を動かすとどんどん洗い終わった物たちの収納場所が分からない。
「あのー、これはどこにしまうんですか?」
「それは、ここ。」
「これはどこですか?」
「それはあっち。」
そんなやり取りを繰り返しながら数時間経った。
「賄いできましたー。」と言う人間の声が聞こえてきた。
「半田、賄いの準備をするぞ。このコップに水を6人分入れるんだ。」
「はい!」
「半田、味噌汁を入れるんだ。」
「はい!」
パンダは周りの人間達と同じようにきびきびと動いた。
「半田!早く席に着け、お前の先はここだ!」
一番端っこのカウンター席。パンダは急いで席に着いた。
「いただきます!」
皆んなが声を合わせて手を合わせた。
パンダも遅れて真似をする。
皆んな無言でガツガツとご飯を食べている。
パンダは恐る恐る人間の手で箸を持つ。
なんと!こ、こ、これは?!!
巻き寿司ではないか!なんと、今日の賄いは巻き寿司だったのだ!!
一口食べた。びっくりした。
あの、ゴミ捨て場から拾ってきた巻き寿司も美味しかったのに、それを上回る美味しさだ。
「これは、何が入っているのですか?」
「それは、漬け刺身の切れ端と余りもの。」
急いでメモをするパンダ。これがきっとうさぎの役に立つに違いない。ボールペンとメモ帳は狸千人から貰ったアイテムだ。
「巻き寿司はどうやって作るんですか?」
「ご飯に酢入れて、混ぜて巻く。」
すかさずパンダはメモをする。答えてくれた人間は変な顔をしている。
普通の人間はこんな事聞かないのだろうか?それともパンダの箸使いが変だからだろうか。
それからお店の掃除をした。
掃除機をかけてカウンターを拭いて、雑巾で床も拭いた。それからお客さんが来て、皆んなの「いらっしゃいませー!」と言う声が聞こえた。
パンダはそんな声を聞きながら、洗い物を続けた。
「半田くんはもう帰って良いよ。」
「はい!お疲れ様でした!」
「取り敢えず一週間働くんだろ?」
「はい!そうです。」
「じゃまた明日。」
「お先に失礼します!」
人間の礼儀のある程度は狸千人に教わった。
また明日って言葉、良いなとパンダは思った。森の動物達の間でもよく使うのだ。
皆んなまた明日ねーって言いながら手を振ってそれぞれの家に帰る。また明日、当たり前のように会える。
ここの人達とは一週間後にはまた明日、ではなくなるという事をなんだかパンダは寂しく感じた。
狸千人が言っていた事は本当だ。
人間はやる事があり過ぎる。
今日パンダは別の事を教えられていた。
「基本のセッティングはこうだから。この通りにやってね。それが終わったら和らぎボトルに水を入れるの。」
「はい!」
「取り敢えず、このボトル全部に水を入れながらおしぼりを巻いてくれる?」
「はい!」
一階と二階を行ったり来たり、
「半田くん、この届いた荷物、3階の更衣室に上げといて!」
「はい!」
「そのついでに白い冷蔵庫の中にあるワサビ取ってきて!」
「はい!」
パンダはある意味人気者だった。
一日中行ったり来たり、知らない事を学んでパンダは森に帰るとグッスリと眠るのだった。
パンダはこの一週間で少し分かったことがある。それは美味しい料理をお客さんに食べてもらう為には、皆んなで力を合わせないといけないという事だ。
お部屋が綺麗で、コップが綺麗で、お料理が美味しくて、皆んな笑顔が一番なのだ。
これはうさぎのお姉ちゃんの結婚式にも役に立つ情報に違いない。
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