パンダ、頑張れ、その先にあるものは
狸千人は森のすこーしだけ霧がかかっている、余りみんなが来ないような所に住んでいる。
森の皆んなの集まりに偶に顔を出すくらいで、最近は老体で余り動きたくないようだった。
狸千人がなぜ物知りかというと、人間に化ける事が出来るからだった。
最近は身体に応えるようでその術も余りしないようだけれど。
20分くらい皆んなで歩いていると、狸千人の家に辿り着いた。
「狸千人ー!!!」
皆んなでドアの前で呼びかける。
「入れー。」
狸千人は起きているようだ。
「「「お邪魔しまーす。」」」
「話は分かっておる。お前達、巻き寿司が食べたいのじゃろう。」
狸千人はなんでも知っているのだ。
水晶玉が家にあって、それを見て皆んなが困っていたら助けてくれたりするのだ。
「「「巻き寿司?!?、、というのですか?!」」」
「そうだ。あれは巻き寿司という日本料理じゃ。パンダが拾ってきたのは、恵方巻きの余りじゃろう。人間が節分の日に大量生産するのじゃ。」
くまが言った。
「恵方巻き?巻き寿司ではないのですか?」
「同じじゃ。恵方を向いて3月3日に人間が丸かじりして食べるかどうかの違いだけじゃ。」
うさぎが言った。
「狸千人!巻き寿司はどうしたら作れるのでしょうか?サトシのレシピに載ってないのです!」
「簡単な事じゃ。人間から直接技を盗んでくるのじゃ。」
パンダが言った。
「狸千人が人間に化けてくれるのですか?!」
「いや、ちと最近調子が悪くてなあ、人間に化ける術をパンダに伝授しよう。」
「わーい!やったあ!」
「「何故パンダなのですか!」」
パンダは中々のおっちょこちょい。よく森の地面に根を張っている木につまづいては転けている。ゴミ捨て場から色々な物を拾ってきては楽しそうにしており、偶に役に立つ物も拾ってくる。
「お前達も知っておろう。うさぎは森の皆の集会所でのシェフ、お姉さんの結婚式の料理の準備などもあるじゃろう。くまはこの森の頼れるお兄さんのようなもんじゃろう。不在だとワシの手足となって動いて貰う事が出来んくなる。」
「僕は?僕は?」
「お前は中々良い物を拾ってくる。今度は技術を拾ってくるのじゃ。」
パンダはこれから始まる事にワクワクしていた。自分に任された重大な任務。人間に化けて、人間から巻き寿司の技術を学ぶこと。そしてそれをうさぎに伝え、うさぎが美味しい巻き寿司を作る、、、。
「はい!!僕に任せてください!」
「パンダ!頼んだわよ!あんたはおっちょこちょいだけど、いざとなったら凄いって信じてるから!」
「パンダだって、バレねえと思うけど、人間はいきなりパンダを見たらビビると思うから気をつけてな。」
「うん!分かった!2人ともありがとう!」
こうしてパンダは人間に化ける技を狸千人から教わる事になったのである。
パンダの朝は早かった。
朝6時に起床。普段11時まで寝ているパンダにとってこれは困難この上ない。
眠い目を擦りながら身体をなんとか引き起こす。
「パンダよ、朝起きたらこれを飲め。」
狸千人に渡されたのは緑のスムージーだ。
これを飲むのは人間の気持ちを理解する為だ。
「パンダ、朝起きたらまずラジオ体操じゃ。」
これも人間の気持ちを理解する為である。
人間という生き物は、やらなければいけない事が沢山あるらしい。
人間は毎日器用に時間配分しながら毎日それをこなすというのだ。
人間から技術を学ぶ為にはまず人間と同じ土台に立てと狸千人が言う。
「パンダ、歌を歌うのじゃ。これは、人間を理解するのに最も適している。」
「アニソンでも良いですか?」
「良かろう。」
僕は拾ってきたパソコンでたくさんアニメを観た。うさぎと取り合いにならないようにするのが大変なのだ。
「パンダ、歌う時はマイクを持て、そして小指を立てるのじゃ。」
そう言って狸千人に小枝を渡された。
「何故小指を立てるのですか?」
「これが正しい人間の歌い方じゃ。」
狸千人は本当に物知りだ。パンダの知らない事をいっぱい知っている。
「これから人間に化ける術の唱え方を教える。」
「はい!ご指導お願いします!」
狸千人は眉間に皺を寄せ、手を合わせた。
「人間になりたい。人間になりたい。人間になりたい。」
「人間になりたい。人間になりたい。人間になりたい。」
「もっと大きな声で!!!」
「はい!!」
「これは魂の叫びなのじゃ!心から言うことじゃ。」
「はい!!」
狸千人とパンダは横に並んで胡座をかいて目を閉じて手を合わせる。
「行くぞぉ!!第一の法則!ハイボール!」
「行くぞぉ!!第一の法則!ハイボール!」
「炭酸水は、美味しいゾォ!!」
「炭酸水は、美味しいゾォ!!」
「レモンを入れても良いですか?」
「レモンを入れても良いですか?」
「お次は日本酒、お刺身と一緒に!!」
「お次は日本酒、お刺身と一緒に!!」
「取り敢えず生で。」
「取り敢えず生で。」
「それは水ですか?」
「それは水ですか?」
「いいえ米焼酎です。」
「いいえ米焼酎です。」
「それはメレンゲですか?」
「それはメレンゲですか?」
「いいえ、フロスティミストです。」
「いいえ、フロスティミストです。」
「好きなものは数えきれません。」
「好きなものは数えきれません。」
「でも貴方、水は飲みなさいよ。白湯でも良いわ。」
「でも貴方、水は飲みなさいよ。白湯でも良いわ。」
「熱燗、熱燗ーーーーーーーーー!!(貴方の好きな日本酒の名前を入れましょう)!!!!!!」
「熱燗、熱燗ーーー!!」
「この深み、味わい深さ、これはもう、、、。」
「この深み、味わい深さ、これはもう、、、。」
その呪文を唱えると狸千人の辺りの木の葉が宙を舞い、狸千人を包んだ。
すると現れたのは人間のお爺さんだった。
「お主、最後の熱燗の伸ばし具合が足りんかったのう。この呪文で人間になる事が出来る。」
「狸千人!!!凄い!!僕も、人間になります!」
「先ずはこれを暗記して完璧に言えるようになる事じゃ。ここで大切なのは、お主にはまだ意味が分からなくても、お主なりに意味を想像する事じゃ。そうする事で、この呪文は完成する。」
「はい!分かりました!!」
気になって覗きに来たクマは、何だか見てはいけないものを見てしまった気がしたのである。
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