第125話 対決2
女将と
蒼汰は横に落ちていた『網』を手に取った。琴音の作った『網』だ。網目がいびつな形をしている。網目が密になっているところと、
『網』は一時的には妖怪の攻撃を避けることができるが、長い時間、嚙み続けられると破れてしまう。逆に言うと嚙み切るのには時間が掛かるわけだ。それで、さっき
と、いうことは? 蒼汰は急いで『網』を探った。網目が密の部分には、かみ切られていない網目がまだたくさん残っていた。琴音の作ったいびつな『網』の構造が功を奏して、網目がまだ残っていたのだ。
まだ『網』が使える・・
蒼汰は『網』を手に立ち上がった。食い破られた網目の疎の部分がバラバラといっせいに地面に落ちた。網目の一番密な部分だけが蒼汰の手に残った。
蒼汰はとっさに考えた。篁と琴音が言っていたことを総合すると、女将はひらひらしたものと透けたものを
このメイド服のレースとパンストで女将をおびき寄せることができるはずだ。
蒼汰は防犯灯の下に走った。
防犯灯の光の中に進み出ると、メイド服のスカートを大きくめくり上げた。ペチコートもめくり上げた。防犯灯の光の中に白いショーツが丸見えになった。ショーツの鮮やかな白が防犯灯の中に浮かび上がって光を反射した。そして、パンストを丸めて太ももまで下ろした。白いショーツの下には、蒼汰の太ももの位置に、茅根がはいていた肌色のパンストが丸まっていた。これで女将から見てパンストが脱がしやすくなった。
明日香の驚く声が後ろから聞こえた。
「神代君。あなた・・・一体何をしてるの。危ないわよ。隠れなさい」
蒼汰はスカートとペチコートのすそを手で持って大きく扇いだ。スカートと白いペチコートが揺れた。同時にメイド服のエプロンの白いフリルと白いレースがいっせいに揺れた。頭につけた白いカチューシャの白いフリルも揺れた。
そうして、腰を女将の方に突き出した。白いショーツと太ももで丸くなったパンストがさらにむき出しになった。女将にショーツとパンストがよく見えるように腰を振った。白いショーツが揺れた。肌色のパンストが揺れた。まるでダンサーが腰を突き出して踊っているようだ。
・・・・・・・
蒼汰は防犯灯の光の中でスカートとペチコートのすそを手で持って扇ぎ続ける。手に合わせて蒼汰の腰が揺れる。
スカートのすそが揺れる。白いペチコートのすそが揺れる。メイド服のエプロンの白いフリルと白いレースが揺れる。頭の白いカチューシャと白いフリルが揺れる。白いショーツが揺れる。白色の中に太ももの位置で丸めた肌色のパンストが浮き上がって揺れる。
闇の中に咲いた白い花々が風に吹かれて舞っている。
ヒラヒラヒラヒラヒラ・・・
蒼汰の淫猥な踊りが続く。白い花々が揺れる。
夷川児童公園にいる全員が、突然の蒼汰の舞に驚き、そしてあっけに取られていた。全員の視線が蒼汰に集中した。全員が「一体何が始まったのか?」という顔をしている。
女将が蒼汰を中空からじっと見つめている。揺れるレースのひらひらとパンストを見つめたままだ。篁がブランコの脇に立って太刀を振りかぶった姿勢で、スカートをめくって腰を突き出して踊っている蒼汰をポカンと見つめている。篁の口が開いたままだ。明日香と琴音も茫然と突っ立って、蒼汰をあっけに取られて見つめている。明日香と琴音の口も半分開いたままだ。
暗闇の夷川児童公園の中に蒼汰の白いフリルとショーツが浮かび上がっている。
白いペチコートのすそが揺れる。エプロンの白いフリルと白いレースが揺れる。頭の白いカチューシャと白いフリルが揺れる。白いショーツが揺れる。白色の中に太ももの位置で丸めた肌色のパンストが浮き上がって揺れる。
暗闇に白い花々が浮き上がって揺れている。
ヒラヒラヒラヒラヒラ・・・
ヒラヒラヒラヒラヒラ・・・
ヒラヒラヒラヒラヒラ・・・
幽玄の世界だ。
ろくろ首の女将が黙って中空から蒼汰のフリルとパンストを見つめている。ふいに、暗闇の中で女将の眼が光った。公園に女将の声が響いた。
「死ねぇえええええ」
女将の身体が中空から蒼汰をめがけて飛んだ。一直線に蒼汰にぶつかる。その瞬間、蒼汰は隠し持っていた『網』を取り出して、自分にかぶせた。首に二重三重に『網』を巻いた。
女将が『網』をかぶった蒼汰にぶつかった。蒼汰の身体が飛んで西のすべり台にぶつかった。すべり台が揺れた。蒼汰が地面に倒れる。土が舞った。女将がかぶさってきた。女将の口が蒼汰の首にかみついた。生臭い嫌な臭いがした。女将の牙が『網』に当たった。
蒼汰の首の『網』の重なりが女将の牙をはね返した。
蒼汰の上に馬乗りになった姿勢で、女将の上半身が起きた。その瞬間、蒼汰は『網』を反転させて女将にかぶせた。
そのとき篁が動いた。ブランコの脇からひととびに西のすべり台まで飛んだ。太刀を眼の位置にかかげて気合とともに投げた。同時にパンスト蒼汰も走った。走りながら剣を女将に投げつけた。ネグリジェ蒼汰が女将に向けて矢を放った。ワンピ水着蒼汰が盾を女将に放った。
女将はいつものように伸ばした首をふって、それらをはね飛ばそうとした。いつものように首を伸ばした。首が『網』に当たった。首は伸びなかった。『網』が女将の首が伸びるのを阻止していた。
女将の眼に恐怖が宿った。
『網』の隙間を篁と蒼汰人形たちの武器が貫いた。
女将の額に篁の太刀が刺さった。首をパンスト蒼汰の剣が貫いた。胸に深々とネグリジェ蒼汰の矢が刺さった。横からワンピ水着蒼汰の盾が飛んできて、額の篁の太刀に当たった。盾が太刀を押した。盾に押されて篁の太刀が女将の頭を突き抜いた。
断末魔の声が闇を切り裂いた。
「ウギャアアアアアアア」
蒼汰の上に馬乗りになった姿勢で、女将の身体が白い煙に包まれた。『網』の中で女将がもがいていた。女将の首が蛇のようにくねっている。手足が打ち震えている。煙が濃くなった。煙が蒼汰を巻き込んだ。蒼汰の姿も見えなくなった・・・女将と蒼汰が真っ白になった。
やがて、煙が薄れていった。
蒼汰だけがいた。女将の姿が消えていた。蒼汰の身体の上に『網』だけが残っていた。
「ろくろ首を討ちとったり」
篁の大音声が夷川児童公園に響いた。いつの間にか篁の姿が中空にあった。
「篁さん」
明日香が蒼汰の横に駆けてきて、篁を見上げて言った。
「助けてくれてありがとう」
篁が明日香に微笑んだ。
「こちらこそ礼を言うぞ。そなたらのおかげで、ろくろ首を討ちとったぞ」
篁はそう言うと、
静寂が夷川児童公園を包んだ。
明日香が蒼汰に歩み寄った。
「神代くん。ありがとう。私を女将から守ってくれたのね」
蒼汰が明日香を助けたのは初めてだった。いままでは、明日香が蒼汰を助けていたのだ。明日香がそう言いながら、ゆっくりと蒼汰に抱きついた。蒼汰が明日香の背中に手をまわした。蒼汰が初めて明日香の名を呼んだ。
「明日香さん・・」
防犯灯の光の中で二人が見つめあった。二人の頭がゆっくりと近づいた。明日香が眼をつむった。
そのとき、琴音の声が公園に響いた。
「あっ、あそこに人が・・・」
見ると公園内の二つの木のベンチに、それぞれ誰かが横たわっている。月明かりの中に人影が黒い影となって浮かんでいた。
明日香が蒼汰から離れて、あわててその一つに駆け寄った。
「葬儀屋くんよ」
蒼汰ももう一つのベンチに走った。
「こっちは、茅根先生だ」
息をしているか確認する。
「大丈夫だ。息をしている。山之内さん、葬儀屋は?」
「うん、葬儀屋くんも息をしているよ」
「
蒼汰が篁が消えた空を見上げた。
「すぐに救急車を呼びましょう」
明日香が携帯を手にして叫んだ。
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