第124話 対決1
女将の口が蒼汰の首に迫った。
その瞬間だった。
「ギャアアアアア」
女将が断末魔の叫びを上げた。女将の額には深々と1本の矢が刺さっていた。
「見たか」
夜空に大音声が響いた。真っ暗な中空に
女将の首が「の」の字を描くと蒼汰から離れた。額に矢を突き立てたまま、中空に止まって鋭い眼で篁をにらんだ。
「おのれ、篁」
女将の口から声が洩れた。舌が出て中空をのたうった。次の瞬間、舌が額の矢を抜き取っていた。舌が一閃した。矢が篁に向かって飛んだ。篁が左手で太刀を抜いた。気合とともに矢を切り捨てた。真っ二つになった矢が二つの線になって遥か彼方の中空に音もなく消えていった。
女将が大きく口を開けた。その口から紅蓮の炎がほとばしって篁を焼いた。
篁の姿が中空から消えた。
次の瞬間、
女将の身体が宙高く舞った。首を一閃させる。篁の放った矢が女将の首に当たって方向を変えた。矢はそのまま、公園の南にあるシーソーに飛んだ。矢がシーソーに突き刺さった。木製のシーソーが木っ端みじんに吹き飛んだ。木くずが空を舞った。
いつの間にか、女将の身体は西側のすべり台の上に立っていた。明日香が上がっていたすべり台だ。篁と女将が東西のすべり台の上に立ってにらみ合った。
琴音が蒼汰人形を叱咤する声が聞こえた。
「ネグリジェ蒼汰、ワンピ水着蒼汰、パンスト蒼汰。立て。立って女将に向かえ。すべり台を取り囲め」
倒れていた3人の蒼汰人形が立ち上がった。女将のいるすべり台を取り囲む。ネグリジェ蒼汰が女将に向けて矢を放った。
「こしゃくな」
女将が笑った。
また首が舞った。首が中空で止った。女将がネグリジェ蒼汰の矢をくわえていた。女将の口が動いた。矢じりが公園の防犯灯に鈍く光った。矢が光の線を描いて東のすべり台の上の篁をめがけて飛んでいく。篁が弓を投げ捨てて再び太刀を抜いた。太刀を一閃させて、飛んでくる矢を気合とともに切り捨てた。矢は二本の線になって、地面に突き刺さった。二カ所からゴウという土煙が上がった。
こんどは女将の首が地上の蒼汰に向かって伸びた。口の中の牙が光った。
ワンピ水着蒼汰が走って、盾で女将の首を跳ね返した。鈍い音がした。反動でワンピ水着蒼汰が背中から地面に叩きつけられた。そのまま、ワンピ水着蒼汰が地面を滑っていき、公園と道路を隔てている鉄柵にぶつかった。ゴンと大きな音がして鉄柵が大きく折れ曲がった。
ワンピ水着蒼汰に跳ね返された女将の首は、横のブランコに飛んだ。ブランコを支える4本の支柱の1本に首が巻き付いた。支柱を中心に女将の首がぐるぐる回転し、まるで蛇のとぐろのようになって止まった。女将の首が回るごとに鉄製の支柱がギシギシと音をたてた。蛇のとぐろの先に女将の顔があった。
女将の口がニヤリと笑った。
東のすべり台の上から篁が飛んだ。空中で太刀を真上に大きく振りかぶって、女将の首に向かって気合を込めて打ちおろした。西のすべり台の横からパンスト蒼汰がブランコに走った。剣をふりかざして、篁の太刀と同時に女将に打ち下ろした。
ブランコの支柱に巻き付いた女将の首がしなった。ガアンという音とともに鉄製の支柱が真っ二つに折れた。女将がとぐろをほどいた。篁の太刀とパンスト蒼汰の剣が女将の首に飛ぶ。女将の首が中空に伸びた。折れたブランコの支柱が宙を舞って、篁とパンスト蒼汰に向かって飛んだ。篁の太刀とパンスト蒼汰の剣が舞っている支柱を切り裂いた。支柱は3つに分かれて地面に突き刺さった。土煙が舞った。篁がブランコの脇に降り立った。
見上げると、女将の身体が中空に浮いていた。中空に浮いた身体から首が伸びて、その首が全員を見下ろしていた。
西のすべり台の下に明日香が立っていた。足元には、先ほど
女将が明日香を見た。眼が光った。口が引き裂かれた。
女将は山之内さんを狙う気だ。いけない。何としてでも山之内さんを助けないと・・・
蒼汰は西のすべり台の下に懸命に走った。
女将の首が明日香に伸びた。明日香は恐怖で動けない。女将の牙が一本の光となって明日香に迫った。速い。
「キャー」
明日香の悲鳴が響く。女将の鋭い牙が明日香の首にかみつく。
その瞬間、蒼汰が女将の顔に身体ごとぶつかった。女将の顔が横に飛んだ。顔がすべり台の支柱にぶつかった。ゴンと大きな音がして、そこだけ支柱が折れ曲がった。
蒼汰の身体が女将にぶつかった反動で宙に舞った。そのまま、明日香の身体の上に落ちた。二人が一緒になって地面に倒れた。土煙で二人の身体が一瞬見えなくなった。
土煙が収まると、地面に明日香と蒼汰が倒れていた。そこへ、女将の顔が向かってきた。女将が再び明日香を狙ったのだ。女将の牙が再び明日香の首に迫る。鋭い牙が防犯灯の光を三角形に反射した。明日香の隣に倒れている蒼汰が、倒れている姿勢で思い切り女将の顔をめがけて足を出した。
蒼汰のメイド服のスカートから蒼汰の足が伸びた。スカートとペチコートが防犯灯の光の中に大きくめくれ上がった。蒼汰のメイド服のパンプスが女将の顔に飛んだ。パンプスのハイヒールのかかとが女将の眼を思いきり蹴り上げた。
「ぎゃあああ」
片目をつむった女将の顔が大きくのけぞった。白い首が大きく一回転すると、女将の顔は再び中空にあった。
女将が公園を見まわした。片目をつむったままだ。
女将の口からウーという声が洩れた。
ブランコの脇に立ったまま、篁が太刀を振りかぶった。
そのままの姿勢で女将と篁は動きを止めてにらみ合った。
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