第118話 小野篁2
蒼汰が
「しかし、ろくろ首は、最初は、この男性が足につけていた短い布と、この女性が足につけていた長くて透き通った布の二つを狙ったんです。しかし、ある時点から、この女性が足につけていた透き通った布だけを狙うようになりました。それはなぜでしょうか?」
「それはろくろ首が
「そわか?」
今度は
「
蒼汰は首をひねった。
「集合の呪術?」
「ろくろ首はこの男女二人に
「すると、ろくろ首の狙うものが、途中からこの女性が足につけていた布だけになったのは?」
「最初、ろくろ首は
「
「そのとおりじゃ」
「それで、
今度は明日香が聞いた。
「男の持つエネルギーが低下しておるが、いまのところは心配はいらぬ」
「男性のエネルギーが低下? それで、男性に支障はないのですか? 命に別状はないのですか?」
明日香がいきおいこんで聞く。
「心配はいらぬ。さっきも言ったように、男の命に別状はない。ただし、いまのところはじゃ。これは、そなたらの科学では理解が難しかろう。人の持つエネルギーは、一つではないのじゃ。エネルギーには、さまざまな種類がある。生きるためのエネルギー、他者と交流するためのエネルギーといった具合にな。それで、そのうちの一つが陀羅尼に大きく関係しておる」
「ろくろ首が
明日香が声を上げた。
「つまり、逆に言うと、ろくろ首が、女性が足につけていた布を手に入れて
「そのとおりじゃ。女が足につけていた布はろくろ首に渡してはならぬ」
蒼汰は
そうすると女将が夢の中で欲しがった、僕が着た赤いネグリジェ、赤いワンピースの水着、パンストは
「それで、二人はいつまでこの中にいることになるのですか?」
今度は琴音が聞いた。
「さあ、それじゃ。二人をここから出せばろくろ首に狙われる。女が足につけていた布をろくろ首が手に入れる前に、ろくろ首を退治できたら二人をこの空間から出すことができよう」
「では、この二人をここから出して、もとの世界に連れ戻そうとするには、私たちが、ろくろ首を倒さないといけないわけですね」
「そなたらがろくろ首を倒す? 私でさえ倒せぬ相手じゃぞ。そなたらがろくろ首を倒せるものか」
「ここ、
明日香が答えた。
「そなたらの時代に帰ったらか・・・」
珍しく
「よかろう。そなたたちの時代で、思う存分、ろくろ首と闘ってみよ」
強い意志を感じる言葉だった。蒼汰は思った。もし、この
「
今度は琴音がたずねた。
「もちろん、そなたらは帰ることができる。この世界とそなたらの世界はつながっておるのじゃ。その入口と出口は、井戸であったり、広場であったり、屋敷の壁であったり・・・いろいろなところにあるのじゃ。そなたらがろくろ首の旅館で滝の水流に襲われたときにふたを開けたという文箱は、こちらの世界へ来る入口を開けるスイッチだったのじゃ」
そうか。あのとき、掛け軸の下に開いた穴はこの世界への入口だったのか。それで和室の中の水があの穴に吸い込まれていって・・・僕らはこちらの世界に吐き出されたのか。蒼汰の頭の中の謎が少しずつ氷解していくようだ。
「このお
琴音の眼が輝いている。蒼汰も明日香も
「ある」
現代に帰ることができるという希望が蒼汰にわいてきた。明日香も琴音も同じだったようだ。
すかさず琴音がたずねる。
「その出入口はこのお
「ここじゃ」
すると、突然、まわりの空気が穴に向かって吸い込まれ始めた。まるで掃除機の吸い込み口の前に立っているようだ。たちまち、蒼汰の身体が宙に舞った。風の中できりもみになった。眼の端に、明日香や琴音が舞っているのが見えた。3人の蒼汰人形たちが風の中で木の葉のようにぐるぐると回転していた。
そのとき、
「行け。そなたたちの時代で思う存分、ろくろ首と闘ってみよ」
蒼汰は頭から穴の中に吸い込まれていった。
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