第117話 小野篁1
蒼汰は板に叩きつけられた。反動で身体が一回転して床に尻をついた姿勢で止まった。明日香に折檻された尻が痛んで、蒼汰は思わず「グッ」という声を洩らした。メイド服のスカートが大きくまくれあがっていた。蒼汰はあわてて手でスカートを直した。
つづいて、明日香や琴音、3人の蒼汰人形たちが次々と落ちてきて、蒼汰と同じように一回転して床に座った姿勢で止まった。
板張りの床だった。広い部屋だ。周囲には一枚格子の
大きな男だった。頭に
大男は黙って蒼汰たちを見つめている。
蒼汰たちが互いに顔を見合わせていると、ふいに大男が口を開いた。腹に響くような低い声だ。
「私が先の
蒼汰は眼を見張った。これが
琴音が驚いた様子で聞き返す。
「
「私は既に死んだ身じゃ。いまそなたらが聞いておる言葉は、生身の口から出た言葉ではない。私はそなたらに思念を送り、そなたらは頭の中で、その思念をそなたらの言葉に置き換えて理解しておるだけじゃ。逆に、そなたらが私に送る思念は、私には私の時代の言葉として理解できるのじゃ」
テレパシーのようなものか? 蒼汰はそのように理解した。むろん、テレパシーではないかもしれないが、詳しく聞いたところで蒼汰に理解できるはずもなかった。蒼汰の思いとは別に
「
「いえ、私たちこそ、仏童丸様に助けていただきました」
琴音が答える。蒼汰も明日香も、この時代の者との対話は琴音に任せていた。
「して、そなたらはどのような仔細があって、こちらに来られたか?」
琴音が女将との闘いのいきさつを簡単に説明した。
「私たちの仲間の男女を探しています。
「仏童丸が申しておった男女じゃな。よかろう。こちらに来られよ」
板敷の廊下を複雑に歩いた。すると、
そこは10畳ほどの壁に囲まれた窓のない板張りの部屋だった。その部屋には光が充満していた。赤、青、黄、緑、青・・・様々な色が飛びかい、壁に当たって反転し、複雑に交差していた。その光の中に、佐々野と茅根が横になった姿勢で浮かんでいた。二人とも上を向いて眼をつむっている。まるで、寝ているかのようだった。二人は中空に横たわって、床から2mほどの高さのところをゆっくりと回転していた。
「ここは?」
蒼汰の口から声が洩れた。
「そなたらの世界の言葉では説明できぬ。ここは、そなたらの言葉でしいて言えば、亜空間とでもなろうか」
亜空間? 亜空間とは、通常の物理法則が通用しない空間だ。そんな空間がどうしてこの部屋に? 蒼汰の頭は混乱した。
「この男女は先日、
琴音が、ゆっくり回転している佐々野と茅根を見上げた。琴音の顔に七色の光が当たって複雑な陰を作った。琴音が聞いた。
「それで、この二人は生きているのですか?」
「心配はいらぬ。生きておる。意識は戻っておらぬが、いまのところは、命には別状はない」
蒼汰は聞きたかったことを声にした。
「
「それは
「だらに?」
あわてて、琴音が説明する。
「
「この空間の中には、通常の物理法則は作用せん。しかし、呪いは作用するのじゃ。私が二人をこの空間に保護したので、ろくろ首は、この二人に
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