第116話 妖怪と死者4

 「おそらく、神代さんが今着ているメイド服のワンピースのことだと思うんです。それで、茅根先生は失踪したとき、どんな服装でした?」


 「たしか・・・水色のワンピースだったと思うわ」


 明日香が記憶をまさぐって答えた。


 「じゃあ、ピッタリですね。それで、仏童丸ほとけのわらべまるの言う『明日香さんのような服を着た男性』というのは、たぶんズボンをはいた男性のことを言ってるんだと思います。明日香さんはパンツをはいていらっしゃいますね。女性のパンツは男性のズボンと非常に似ていますものね」


 「と言うことは、葬儀屋と茅根先生がこの鳥辺野とりべのに来たんだね」


 蒼汰は驚いて琴音に聞き返した。


 「そうです。仏童丸が言うんですから間違いないと思います」


 「琴音ちゃん。それは朗報よ。それで二人はいまどこにいるのかしら?」


 「おじいさんの小野おののたかむらのところにかくまっているという話です。それで、さっき仏童丸がおじいさんのところへ知らせに行ってくれたんです」


 「じゃあ、さっそく、おじいさんの小野おののたかむらのところに行ってみましょう。どう行けばいいのかしら?」


 「仏童丸はこの道をまっすぐ行けばいいと言っていました」


 そう言って、琴音はさっき仏童丸が立ち去った道を示した。


*********  


 三人は蒼汰人形を連れて仏童丸が立ち去った道を進んだ。


 やっと、葬儀屋と茅根先生の情報を得ることができた。そう思うと、蒼汰の心は弾んだ。明日香も同じ思いだったようだ。全体の先頭に立って、張り切って歩いて行く。


 やがて前方に小さな小屋が見えてきた。小屋といっても丸太を乱暴に組んだだけで、廃屋といってもいいようなものだ。丸太の隙間には雑草が荒れ放題に顔をのぞかせている。建てられてから一度も手入れをしたことがないという感じだった。強く揺すると崩れそうだ。


 小屋の正面の壁に穴が開いていた。


 あれが入口だろうか? 蒼汰が中をのぞくと、穴の中は真っ暗だった。


 琴音が穴の前に立った。


 「ごめんください」


 中からは返事はない。


 「入りましょう」


 琴音が、明日香と蒼汰を振り返って、思いきったように言った。明日香がゴクリと唾をのみこむ音が聞こえた。


 蒼汰は琴音と明日香に続いて小屋の中に入った。


 ひんやりした空気が身体をつつんだ。真っ暗だ。蒼汰は手探りで進んだ。


 3人の蒼汰人形も蒼汰に続いて中に入ってくるのが分かった。


 突然、床が消えた。蒼汰は地の底へ落下していった。

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