第115話 妖怪と死者3

 役所の長官が代々『閻魔』だって!


 次々となじみのある名前がでてくる。蒼汰はまたまた驚いた。


 「ええ、閻魔というのは人や仏や神様の名前ではなくて、お役所の役職の名前だったんですね。それで、閻魔の下にも3つの役職があって、それぞれ生者つまり人間、妖怪、死者の代表が勤めていたそうなんです。小野おののたかむらは生きていたときは生者の長官をしていたんですけれど、亡くなったあとは死者の長官をずっと今まで続けているそうなんです。そして、妖怪の長官が、あのろくろ首の女将なんです」


 「あの女将が長官だって・・・」


 蒼汰が信じられないというような声を上げた。


 長官というんだから部下もいるんだろう。蒼汰は自分が女将の部下になったときのことを想像したが・・・すぐに断念した。とても想像することができる話ではなかった。


 「ちょっと、女将が長官というのはイメージするのが難しいんですが、仏童丸ほとけのわらべまるの話を現代風に翻訳すると、どうも『長官』としか訳しようがないんです・・・それで、いまは閻魔の席は空席で、生者の長官も空席になっているらしいんです。つまり、この鳥辺野とりべのには、死者を治める小野おののたかむらと妖怪を治める女将だけが長官をしているわけです。実は、昔から生者と死者の一族と妖怪の一族は仲が悪くて、今もこの鳥辺野で小野篁と女将が争っているらしいんですよ」


 「小野篁と女将が争っている・・・」


 今度は明日香が自分に聞かせるように復唱する。蒼汰にも思いがけない話だ。


 「明日香さん、そうなんです。そして、その小野篁と女将の争いに小野仏童丸が巻き込まれてしまったんですよ。小野仏童丸は人間の世界に行くと、検非違使に雇われた放免ですが、この鳥辺野では、おじいさんの小野篁の部下として妖怪と闘っているというわけなんです。さきほど仏童丸は、私たちと出会って、私たちが妖怪の一味と思って、いったんは逃げ出したようですが、それから思い直して私たちの跡をつけていたらしんです。そうすると、神代さんが女将に襲われているところに出くわしたんで、これは味方だと思って助けてくれたそうなんです。仏童丸は今までに何度も女将と対決したらしんですが、まだ決着がついていないという話をしていました」


 明日香が納得したという顔をした。


 「それで、さっき女将が仏童丸に『またしても邪魔をするか』と言ったわけね」


 「ええ、それで、仏童丸が耳寄りなことを言っていました。少し前に、この鳥辺野に神代さんのような服を着た女性と明日香さんのような服を着た男性がやって来たって言うんですよ」


 蒼汰が素っ頓狂な声を上げた。


 「僕のような服を着た女性?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る