第114話 妖怪と死者2

 琴音が蒼汰に言った。


 「そうです。仏童丸ほとけのわらべまるは小野小町が自分の姉だと言っていました。神代さんは、あんなに風采のあがらない仏童丸なのに、どうして絶世の美女といわれた小野小町が姉なのかって言いたいんでしょ」


 琴音は蒼汰の気持ちを見抜いていたようだ。


 「そう、そうだよ」


 「仏童丸は、はっきりとは言いませんでしたが、仏童丸は弟といっても、姉の小野小町とは血はつながっていないのかもしれません」


 「血はつながっていない・・・」


 「仏童丸という名前は、お寺に関係のある名前の可能性があります。名前からすると、仏童丸はひょっとしたら、おとうさんの小野おのの良真よしざねがお寺にいた子どもをもらってきて、自分の子どもにしたのかもしれませんね」


 「お寺にいた子どもをもらってきた・・・」


 蒼汰は琴音の知識にとてもついていけなかった。琴音の言葉を繰り返すばかりだ。


 「つまり、仏童丸のお父さんの小野良真には、男の子がいなかったわけです。男の子がほしかった良真が、晩年にお寺から男の子をもらってきて、自分の養子にした。それが、仏童丸だとも考えられるんです」


 「・・・・・・」


 「あるいは、別の解釈もできます。小野小町というのは、複数の女性が名乗った名前だという解釈です。そうなると、小野小町は、建前は小野良真の子どもとなっていても、実際は血がつながっていなかったということも充分に考えられるわけです」


 「小野小町が複数いた・・・」


 蒼汰がごくりと唾をのみこんだ。その音が周囲に大きく響いた。


 「私たちの世界には、小野小町というのは複数の人間が名乗った名前だという説があります。ひょっとしたら、こちらの世界でも、複数の人間が小野小町を名乗っているのかもしれません。実を言うと、小野小町の生没年はよくわかっていないんです。生没年が不詳という点も小町が複数いたという説を裏付けているんですよ」


 「・・・・・・」


 琴音は蒼汰の顔を見た。もう、仏童丸や小野小町の質問はなさそうだとわかると、話題を変えた。


 「それで、仏童丸の話は複雑で、また現代の私たちにはとても理解できないところがたくさんあるんです。このため、仏童丸の話は非常にわかりにくいんですが、仏童丸が話してくれた、この土地の状況を現在風に翻訳すると、どうもこのようになるみたいなんです・・・まず、この鳥辺野とりべのという土地なんですけど、昔から人間と妖怪と死者が住んでいるんですが、それらを統括して統治する鳥辺野の役所の長官が代々『閻魔』という名前で呼ばれているそうなんです」


 「え、閻魔だって」


 蒼汰がうわずった声を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る