第108話 花嫁行列4

 狐の口から、さっき飲み込んだワンピ水着蒼汰の手が出ていた。その手が盾を握っている。 


 狐が大きく口を開けた。ごくんと大きくのどを鳴らした。ワンピ水着蒼汰の手と盾を飲み込もうとしているのだ。狐の口から飛び出しているワンピ水着蒼汰の手が狐の口の中に吸い込まれていった。同時にワンピ水着蒼汰の手が握っている盾も、狐の顔面に向かって吸い込まれていく。しかし、盾は狐の口に吸い込まれなかった。なぜか、盾が狐の顔面にゴンという鈍い音を立ててぶつかって止まったのだ。


 狐の口に吸い込まれる・・・


 狐が大きく口を開けたときに、蒼汰はそう思って眼をつむった。しかし、蒼汰は吸い込まれなかった。・・・あれっ? 


 蒼汰は顔を上げた。狐の口をワンピ水着蒼汰の盾がふさいでいた。


 そのとき、明日香が叫んだ。


 「今よ。パンスト蒼汰、剣。ネグリジェ蒼汰は弓よ」


 パンスト蒼汰が盾で口を覆われている狐の胸に剣を突き立てた。ネグリジェ蒼汰が放った矢が狐の首に突き刺さった。


 「ぎゃあああああ」


 狐の叫びが鳥辺野とりべのの荒野にひびいた。狐の身体から白煙が出た。白無垢の身体が白煙の中でのたうちまわった・・・


 やがて、白煙が消えた。白無垢の狐も消えていた。狐に飲み込まれた琴音とワンピ水着蒼汰が、狐の消えた地面に横たわっていた。


 蒼汰は倒れている琴音とワンピ水着蒼汰を見ながら呆然とつぶやいた。


 「狐はどうしたの? 狐は僕の方を向いて口を開けたのに、なぜ、僕は吸い込まれなかったの?」


 「ワンピ水着蒼汰の盾が邪魔をしたのよ」


 明日香が答える。蒼汰は首をひねった。明日香の言葉が理解できなかったのだ。


 「で、でも・・それじゃあ・・ワンピ水着蒼汰の盾はどうして狐に吸い込まれなかったの?」


 「あのとき、狐は口を大きく開けて、ワンピ水着蒼汰の手と盾を吸い込んでから、神代くんを吸い込もうとしたのよ。だけど、盾を吸い込むことができなかったのよ。それで、その盾が狐の口をふさいで、神代くんが吸い込まれるのを防いだのよ」


 「・・・」


 蒼汰は呆然と明日香を見ている。明日香がくすくすと笑った。


 「分からないの?・・・ほら、琴音ちゃんが描いた盾って、すごくひずんでいるよね。普通は盾だとは分からないでしょ」


 「うん。僕らは盾だと知っているから分かるけど・・山之内さんの言うように、すごくひずんでいるので、一見しただけでは盾とは分からないよ」


 「狐は歪んでいることを知らないから、ふつうの盾だと思ったのよ。それで、ふつうの盾を吸い込むように口を開けたわけ。だけど、琴音ちゃんが描いた盾がすごく歪んでいるんで、吸い込まれるときに盾のへりが狐の口に引っかかってしまったのよ。ほら、狐の口って細くて、引っかかりやすいじゃない。それで、狐は盾を吸い込むことができなかったの。その盾が狐の口をふさいだので、神代くんが狐に吸い込まれなかったというわけなのよ」


 「じゃあ、西壁さんが、もしが上手かったら・・・」


 「神代くん。あなたは、狐に吸い込まれていたわ。琴音ちゃんが画がとっても下手だったんで、神代くん、あなた、助かったのよ」

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