第106話 花嫁行列2

 「西壁さん」「琴音ちゃん」

 

 琴音が狐の口に吸い込まれたのを見て、蒼汰と明日香が同時に声を上げた。


 そのとき、花嫁行列が動いた。提灯を持った男が蒼汰にぶつかってきた。男を受け止めようと蒼汰が一歩前に出た。提灯を持ったまま、男が地面を蹴った。男の身体が宙に飛ぶ。軽々と蒼汰を飛び越した。蒼汰の後ろに下りた。菅笠が真っ赤な日傘を放り投げた。日傘の赤が空中に花を咲かせた。狐が宙に舞った。日傘の赤を背景に「白無垢」が空に浮かび上がった。


 「ネグリジェ蒼汰。弓」


 明日香が叫ぶ。ネグリジェ蒼汰が狐に矢を放った。蒼汰の後ろから、男が提灯を宙に投げた。提灯に当たって、矢が錐もみしながら地面に落ちた。


 蒼汰は後ろを振り向いた。提灯を投げた男がいた。おふだを出した。叫んだ。


 「妖怪退散」


 「ぎゃあああ」


 次の瞬間、煙とともに男が消えた。菅笠の男が蒼汰の後ろに飛び掛かった。蒼汰の首を後ろから締め上げた。強い力だった。蒼汰はもがいた。苦しい。蒼汰の口から舌が出た。息ができない。明日香が叫ぶ。


 「パンスト蒼汰。神代くんを助けて」


 パンスト蒼汰が走ってきて、剣を男の身体に振り下ろした。剣が男の肩に吸い込まれた。


 「ぎゃあああ」


 男の叫びとともに煙が舞った。男が消えていた。 


 今度は「白無垢」が蒼汰の前に降り立った。狐だ。狐が大きく口を開く。蒼汰に恐怖が走った。吸い込まれる。


 「ワンピ水着蒼汰。盾」


 明日香が叫ぶ。ワンピ水着蒼汰が盾を構えて蒼汰の前に走った。狐が驚いて口を閉じた。ワンピ水着蒼汰が盾を狐に対して構えた。そうして、盾で蒼汰と自分の身体を隠した。狐が二人の方を向いて、ふたたび大きく口を開けた。口が開ききる前に、ワンピ水着蒼汰が盾を持った腕を伸ばした。盾を狐にぶつけようとしたのだ。盾が狐の顔にぶつかる寸前に、狐が大きく後ろに飛んだ。空中で一回転すると、そのまま地面に降り立った。「白無垢」の裾が膝までめくり上がった。


 その間に、法被はっぴを着た二人の男が長持ながもちを担いで、蒼汰の後ろにまわっていた。二人が長持のふたを持ち上げた。


 蒼汰は背中から長持の中に吸い込まれていった。一瞬のことだった。


 「神代くん!」


 明日香が声を掛けたが遅かった。法被を着た二人の男が長持から離れて、今度は明日香の前に飛んだ。明日香に向かってくる。明日香が一人にお札を向けた。


 「妖怪退散」


 一人の男は煙とともに消えた。その隙に、もう一人の法被が明日香にとびかかった。明日香にぶつかって、明日香を地面に押し倒した。法被が明日香の上に馬乗りになって、首を締め上げる。苦しい息の下で明日香が叫んだ。


 「ネグリジェ蒼汰。弓」


 法被の指が明日香の首に食い込んだ。明日香の口からグフッという声が洩れた。よだれが口から流れた。明日香の顔色がみるみる白くなっていく・・そのとき、法被の身体が跳ね上がった。


 「うわああ」


 法被の背中に1本の矢が深々と突き刺さっていた。

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