第102話 荒れ野2
琴音は首をかしげた。
「さあ、私も一体ここがどこなのか、まるで分かりません。私たち、あの旅館から、どこかに飛ばされたみたいですね。しかし、不気味なところですね」
琴音も周囲を見わたしながら言う。蒼汰も明日香もつられて周りを眺めた。土と小石の殺風景な灰色の地面がどこまでも続いているばかりだった。相変わらず人の姿は見えない。遠くでカラスが鳴いているのが聞こえた。
蒼汰と琴音を元気づけるように明日香が言った。
「とにかく、三人が出会えてよかったわ。でも、私たち、あの和室の水の中からよく助かったわねえ。神代くん、あなたが文箱のスイッチを触ったのね?」
「うん、僕とワンピ水着蒼汰の二人で文箱のふたをとったんだよ。そうしたら、掛け軸の下に大きな穴が現われて、その穴の中に水ごと吸い込まれてしまったんだ」
蒼汰はそのときになってやっと、蒼汰人形の3人組がいないのに気づいた。
「そういえば、蒼汰人形の3人組はどうしたのかな?」
「きっと、ここのどこかで倒れたままなんですよ。彼らは私か明日香さんが命令を出さないと動けませんから」
そう言うと、琴音が空に向かって大声を張り上げた。
「ネグリジェ蒼汰、ワンピ水着蒼汰、パンスト蒼汰。今すぐ起き上って私たちのところに合流しなさい」
大声に驚いて、遠くにいたカラスの群れが小さな黒い点になって一斉に空に散った。
*********
3人の蒼汰人形たちはすぐに蒼汰たちのところへやってきた。それから、6人は、かすかな痕跡を残す道に従って歩き始めた。一つのところに留まっていても仕方がなかった。何があるか分からないが、とにかく歩いていくより方法がなかったのだ。
道の周りには、木を門の字状に組んだ木枠が点在している。その一つにカラスが群がっていた。カラスがいっぱいで木枠が見えないくらいだった。
「あの木枠はいったい何でしょうか?」
琴音が足元の小石を一つ拾ってカラスの群れに向かって投げつけた。
石に驚いてカラスが一斉に飛びたった。黒いかたまりが一瞬、空を真っ黒に覆った・・・カラスが飛び去った木枠には裸体の死体が掛けてあった。あちこちがカラスに食べられて無残な姿になっている。
「キャー」
琴音が悲鳴を上げた。蒼汰も明日香も息をのんでその場に立ちすくんだ。
「こ、これは・・」
蒼汰の声が出てこない。明日香がゆっくりと口を開いた。
「鳥葬よ。死者を鳥に食べさせて弔うのよ。倉掛先生が渡してくださった本にあったとおりね」
蒼汰は思い出した。京大の倉掛が蒼汰と明日香に渡してくれた『謎を探る 京都の地名』という本だ。『京都の三大風葬地』という項に、平安時代には京都の三大風葬地として
蒼汰は眼の前の無残な死体を見つめた。
こ、これが鳥葬か?
そのときだ。いきなり、背後から声が掛かった。
「ぬしらは何者じゃ?」
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