第101話 荒れ野1
蒼汰は気がついた。
ごつごつする小石の上に仰向けに倒れていた。上半身を起こして身体を見まわす。黒いワンピースに白いエプロンをつけたメイド服姿だ。頭にはフリルのついた白いカチューシャをつけている。
どうして倒れているんだろう?
記憶がだんだんとよみがえってきた。そうだ。五条坂の女将の旅館に行って、さまざまな妖怪と闘った。そして、閉じ込められた和室の中に水があふれてきて、最後は掛け軸の下の穴の中へ水と一緒に吸い込まれてしまったのだ。蒼汰はあわてて服を触った。驚いたことにメイド服はまったく濡れていなかった。
蒼汰はメイド服についた小石を払って立ち上がった。小石の上に倒れていたせいか、身体中があちこち痛かった。周りを見まわした。周囲は荒れ地だった。そこは、まさに、荒れ地としか形容ができない土地だった。
空はどんより曇っていた。重苦しい空の下には、広い原野が広がっていた。地平線の向こうにはかすかに山が連なっているのが望まれた。原野は一面、灰色のむき出しの土と灰色の小石で覆われている。ところどころに人の頭ほどある大きな石がゴロゴロところがっていた。何に使うものなのか、木を門の字状に組んだ高さ1mほどの木枠が、あちらこちらに建てられていた。木枠が地面の色を映して灰色に沈んでいた。
向こうの方に、野焼きでもやっているような煙が二筋上がっている。はるか向こうに小屋のようなものが見わたせた。頭上には、真っ黒で大きなカラスが何羽も舞っている。空も地面も灰色の世界だった。灰色でないのは唯一カラスだけだった。人っ子一人見えなかった。
よく見ると土と小石の地面の上を、かすかな道が1本うねりながら向こうに続いていた。道といってもかすかに痕跡があるだけで、土と小石に覆われていることは他のの地面と同じだった。
蒼汰はもう一度周りを見まわした。明日香も琴音もいない。3人の蒼汰人形の姿も見当たらなかった。
山之内さんと西壁さんはどこにいるんだろう。早く山之内さんと西壁さんを探し出して合流しなければ・・・とにかく、この道を歩いて行ってみよう。
そう思って、蒼汰はその道に沿って歩き出した。ハイヒールの黒いパンプスが小石を踏んで、歩きにくいことはなはだしい。
しばらく歩くと、前方から誰かが歩いてくる。蒼汰が眼をこらすと・・探している当の明日香と琴音だった。二人が蒼汰に気づいて、手を振りながら蒼汰のところへ駆けてきた。
明日香が蒼汰の手をとった。
「神代くん。無事だったのね? 良かった。ほんとに良かった」
明日香が涙声になっていた。
「ええ。何とか助かったみたいだよ。二人とも怪我はなかった?」
「私も琴音ちゃんも大丈夫よ」
琴音が笑いながら、蒼汰の前で両手を広げて振ってみせた。大丈夫だということをアピールしているようだ。琴音が話しだした。
「私、気がついたら、小石の上で倒れていました。そして、起き上って、しばらく歩いていると、明日香さんに出会ったんです。それで、明日香さんと二人で神代さんを探していたんですよ」
蒼汰は周りを見まわしながら琴音に聞いた。
「西壁さん。ここはいったい、どこなの?」
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