第100話 掛け軸4

 片手で文箱をつかみながら、ワンピ水着蒼汰の身体が水流で左右に激しく揺れた。ワンピ水着蒼汰の口から泡がこぼれて、後ろへ流れていった。あぶない。ワンピ水着蒼汰が文箱を離すのは時間の問題だった。


 蒼汰は文箱に近づこうとしたが、水流がそれを許してくれなかった。文箱の周りには特別強い水流が渦巻いているのだ。


 文箱に近づくことができない・・・まるで、水流が文箱を守っているようだ。


 蒼汰は、一か八か、両手でメイド服のワンピースになっているスカートの裾をつかみ、水の中で大きく押し広げた。


 運よく足元から来た巨大な水流が、そのスカートにぶつかった。水流は蒼汰の身体をロケットのように前方へ運んだ。


 蒼汰の眼の前に赤い文箱が迫ってきた。蒼汰は両手をスカートから離して、前方に伸ばした。両手が赤い文箱に掛かった。蒼汰とワンピ水着蒼汰の3本の腕が文箱をつかんでいた。巨大な水流の中で、蒼汰とワンピ水着蒼汰の身体がもみくちゃになった。


 蒼汰の口から泡が洩れた。息が苦しい。気が遠くなっていく。


 水の中で蒼汰はあえいだ。


 そのとき、ひときわ巨大な水流が蒼汰にぶつかった。


 ワンピ水着蒼汰と一緒に、蒼汰の身体は一度壁にぶつかって、一気に和室の中央に引き戻された。しまった。文箱は? そう思った蒼汰は手の先を見た。文箱のふたがあった。ワンピ水着蒼汰が横にいた。ワンピ水着蒼汰の手もその文箱のふたを握っていた。


 二人が文箱のふたを外したのだ。


 すると、掛け軸の下からゴボッゴボッゴボッと大きな音がして、巨大な気泡がいくつか水面に浮き上がった。掛け軸の下の床には大きな黒い穴が開いていた。和室の中の水が大きな渦を巻いて、みるみるその穴の中に吸い込まれていく。


 蒼汰は渦に巻きこまれて、もみくちゃになった。息が苦しい。蒼汰の身体がその穴に吸い込まれた。穴の中は真っ暗だ。


 蒼汰の気が遠くなっていった。

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