第83話 赤い花5
ネグリジェ蒼汰たちの尻に赤いものが見えた。
蒼汰は眼を見張った。
あ、あれは・・・山之内さんが僕のお尻をクリップでつねってつけた赤いアザだ・・
ネグリジェ蒼汰たちのどの尻にも、蒼汰が明日香にクリップでつけられた跡が赤い点となってついている。その赤い点がいくつも連なって、尻に向かって左に『い』、右に『く』の文字を形づくっているのだ。
何十人ものネグリジェ蒼汰が部屋の中で四つん這いになって、ネグリジェをまくり上げて、白い尻を突き出している。そのすべての尻に『いく』の文字が浮かび上がっている。一瞬、蒼汰の脳裏に昨夜の明日香の折檻が浮かんだ。思わず、両手で自分の尻を押さえた。
琴音がネグリジェ蒼汰たちの尻を黙って見つめている。ネグリジェ蒼汰たちは部屋の中で四つん這いになったまま動こうとしない。
琴音の声がひびいた。
「ネグリジェ蒼汰は、前のネグリジェ蒼汰のお尻を見なさい。そして、お尻に赤い斑点で、向かって左に『い』、右に『く』の文字が書いてあるならば、四つん這いのままで、後ろからそのネグリジェ蒼汰の身体に噛みつきなさい」
赤い整列に大混乱が起こった。何十人という赤いネグリジェ蒼汰同士が四つん這いのままで組みつき、噛みつきあっていた。
明日香がすばやく動いた。混乱の中に『妖怪退散』のお札を持って飛び込んだのだ。そして、組みつき、噛みつきあっているネグリジェ蒼汰たちにお札を見せて、「妖怪退散」と叫んでいく。その瞬間、そのネグリジェ蒼汰が「ギャー」と声を上げて、煙として消えていった。
あわてて、蒼汰も『妖怪退散』のお札をもって混乱の中に飛び込んだ。お札をふりまわし、「妖怪退散」と叫んでいく。蒼汰の声にネグリジェ蒼汰が次々と煙として消えていった。
混乱の中で蒼汰は思った。
本物のネグリジェ蒼汰はどうなったんだ? この騒動の中で、本物のネグリジェ蒼汰も後ろにいた偽のネグリジェ蒼汰に噛みつかれているはずだ。大変だ。はやく助けないといけない。・・・でも、本物のネグリジェ蒼汰はいったいどこにいるんだ?
蒼汰はあせった。偽のネグリジェ蒼汰を倒しながら、本物のネグリジェ蒼汰を探した。だが、混乱の中では探しようもない。
何十人という偽物ネグリジェ蒼汰も、蒼汰と明日香の『妖怪退散』のお札で30分もすると全員消えてしまった。
最後に和室の真ん中に赤い色がポツンと残っていた。ひとりだけネグリジェ蒼汰が四つん這いのまま尻を突き出した姿勢で残っていたのだ。そのネグリジェ蒼汰の身体には傷一つなかった。
・・・・・
蒼汰は荒い気を吐きながら、そのネグリジェ蒼汰を見つめた。
どうして、ネグリジェ蒼汰が一人残っているんだ?
蒼汰のそういう疑問が手にとるように分かったのだろう。琴音が蒼汰の方を見て、にこりと笑った。そして、その一人残ったネグリジェ蒼汰を指さして言った。
「このネグリジェ蒼汰こそが、本物のネグリジェ蒼汰です」
蒼汰は眼を向いた。
「えっ、どうして? どうして本物のネグリジェ蒼汰は、他のネグリジェ蒼汰に身体を噛みつかれなかったの?」
明日香も同様の疑問を持ったのだろう。蒼汰と琴音を見ながら不思議そうな顔をしている。琴音がもう一度、にこりと笑った。
「神代さん。明日香さん。一人だけ残された、本物のネグリジェ蒼汰のお尻をよく見てください」
「えっ」
蒼汰と明日香が、本物のネグリジェ蒼汰の尻を覗き込んだ。
あっ・・
蒼汰は絶句した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます