第78話 武器4

 琴音が明日香に説明する。


 「でも、相手は妖怪ですよ。この世のものではないんですよ。それに、明日香さん、考えてみてください。今度はろくろ首の女将が私たちを誘っています。いままでの妖怪には金庫で通用しても、ろくろ首の女将にかかったら、おそらく金庫なんかはすぐに破られてしまうと思いませんか?」


 「そ、それは・・確かに・・あの、ろくろ首の女将が相手では・・金庫に隠しただけでは安全じゃないわね」


 「そうでしょう。では、茅根先生のストッキングの隠し場所として、どこが一番安全だと思われますか?」


 クイズを出題するような琴音の質問に明日香は首をひねった。


 「そうねえ、金庫以外の隠し場所ねえ・・うーん・・思いつかないなあ・・・琴音ちゃん、私は降参よ。いったいどこに茅根先生のストッキングを隠したらいいのかしら? 教えてちょうだい」


 琴音が蒼汰の足を指さした。


 「それは・・神代さんの足ですよ。神代さんご自身が、茅根先生のストッキングをはいていれば、どこへでも確実に持っていけるじゃないですか。それに、神代さんがそのストッキングをはいていれば、いくらろくろ首の女将でもすぐに奪うことが難しいですよね。つまり、これ以上、安全な隠し場所はないというわけなんです。それに、神代さんが茅根先生のストッキングをはいていると、いやでもろくろ首の女将の眼にはいるわけですから、女将をおびき寄せることができますよ」


 「・・・」


 明日香が絶句している。


 蒼汰は茅根の肌色のパンストを頭に思い浮かべた。


 ぼ、僕が茅根先生のパンストをはく? 


 蒼汰はもちろん、誰か他の女性がはいたストッキングなどをはいた経験はなかった。人のはいたストッキングをはくなんて・・なんとなく、恥ずかしい。


 蒼汰がそう言おうとしたときに、琴音が蒼汰人形を指さして話し出した。


 「つまり、あの蒼汰人形くんに、女将が欲しがったネグリジェと水着とパンストを直接着てもらったのと同じですよ。蒼汰人形くんと神代さんが身に着けるのが、女将の攻撃からそれらを守る一番の方法になるわけです。また、女将が蒼汰人形くんと神代さんに注目しやすくなりますから、女将をおびきだすことにもつながるわけです」


 蒼汰と明日香は、横に立っている3人の蒼汰人形をながめた。3人の蒼汰人形は黙って立っている。


 蒼汰はメイド服を手に取ってみた。思わず声が出た。


 「これを僕が着るのかぁ?・・あの茅根先生のストッキングをはいて・・」


 すると、メイド服から何か三角形のものが床にこぼれた。蒼汰はそれをひろい上げた。それには「ハロウィンのお楽しみ 仲間を盛り上げるハロウィンクラッカー」と印刷してあった。蒼汰は首を左右に振りながら、クラッカーをメイド服のエプロンのポケットに入れた。


 琴音がそれを見ながらウフフと笑う。


「きっと、神代さんはメイド服がお似合いですよ。昨日、倉掛先生が東京の私に電話してくださって、詳しいお話をしてくれたんです。それで、メイド服が必要になるかもしれないと思って、私が秋葉原のメイド服専門店で買ってきたんですよ。メイド服専門店だから、これはちゃんとした一流品なんです。そのクラッカーは、メイド服を買ったお店でおまけでもらいました。私、神代さんのメイド服姿が楽しみです。すごく、かわいいと思いますよ」


 蒼汰は天井を見上げて、ため息をついた。


 メイド服なんて・・・本当に恥ずかしい。


 そんな蒼汰と琴音を見ながら、明日香が高らかに言った。


 「これで、ろくろ首の女将と闘う武器もそろったわけね。それじゃあ、このメイド服を着た神代くんと琴音ちゃんと私と、そして3人の蒼汰人形を連れて、今日の午後にさっそく五条坂のろくろ首の女将の旅館に乗り込みましょう。いよいよ決戦ね」

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