第77話 武器3

 琴音が紙袋から取り出したのは・・・服だった。

 

 琴音がその服をテーブルの上に広げた。


 その服は、ミドル丈のフレアスカートの黒のワンピースに、大きなフリルとレースのついた白いエプロンを組合せたエプロンドレスだった。白いふりふりのフレアスカートになったペチコートもあった。ふんわりした白いフリルがついたカチューシャもついている。いわゆるメイド服だ。


 「こっ、これはメイド服じゃない」


 蒼汰の言葉に琴音が妖しく笑った。


 「ええ、そうです」


 蒼汰はメイド服を前にして立ちすくんでしまった。蒼汰の頭に様々な想いが去来した。


 これは誰の服なんだろう? もう蒼汰人形は服を着ているが?・・服を着ているといっても、蒼汰人形はネグリジェとワンピースの水着とパンストというあられもない姿なのだ・・そうか。このメイド服で蒼汰人形の恥ずかしい姿を隠すのか? つまり、蒼汰人形の着ている服の上にさらにメイド服を着せるのだろうか? いや、そうなら、西壁さんは最初から蒼汰人形にメイド服を着せるだろう。すると・・あるいは、西壁さんが着るのだろうか?


 思わず、頭の中の疑問がそのまま蒼汰の口に出てしまった。


 「こ、これを西壁さんが着るの?」


 琴音が平然と答えた。


 「いえ、私じゃありません。着るのはもちろん神代さんですよ」


 琴音の言葉に蒼汰は飛び上がった。


 「ええっ。ぼ、僕だって・・ぼ、僕が、こ、このメイド服を着るの?」


 琴音は当然だという顔をしている。


 「ええ、もちろん、着るのは神代さんですよ。さっきお話しましたように、ろくろ首の女将はヒラヒラしたり、透けていたりする服に眼をつけているんですよ。この白いエプロンの大きなフリルを見てください。このメイド服は女将が狙っている服にピッタリじゃないですか。それに、ろくろ首の女将はメイド服なんて見たことがないでしょう。だから、この服は女将にとって神代さんを特定しやすくなるんです。これで、ろくろ首の女将をおびき寄せることができますよ」


 「でも、琴音ちゃん。白いストッキングがないわよ」


 明日香の声に琴音が首をかしげた。


 「白いストッキングですか?」


 「ええ、メイド服には白いストッキングかタイツと決まっているじゃない。白いストキングかタイツは用意してあるの?」


 明日香の問いに、蒼汰はのどを詰まらせた。なんと明日香はメイド服に乗り気のようすだ。蒼汰は思わず、明日香と琴音の顔を交互に見た。


 メイド服なんて、恥ずかしい衣装はやめてもらいたい。


 明日香も琴音もそんな蒼汰の想いにはまったく気づかない様子だ。二人で蒼汰を無視して話を始めた。


 「ええ、明日香さん、そうなんですよ。メイド服といったら、足元は白いストッキングかタイツですよね。だけど、神代さんには、茅根先生がはいていた肌色のストッキングをはいていただきたいんですよ」


 「ち、茅根先生のストッキングですって・・・どうして?」


 明日香が驚いて琴音に聞いた。


 蒼汰もびっくりして眼を見張っている。茅根は、明日香や蒼汰の同期の佐々野と一緒に東山で失踪した新進気鋭の女流作家だ。蒼汰は、茅根が失踪したときにはいていたパンストを、あの五条坂のろくろ首の女将の旅館で見つけて持ち帰ったのだった。それから、ろくろ首の女将や手下の妖怪が、そのパンストを取り返そうとして、蒼汰を襲ってきているのだった。


 明日香の言葉に、琴音がいたずらっぽく笑った。


 「明日香さん。ろくろ首の女将は茅根先生のストッキングを狙っていますよね。では、そのストッキングは、どこに置いておくのが一番安全だと思われますか?」


 「そ、それは金庫とかじゃないの?・・・」

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