第76話 武器2

 3枚の紙に何の画が描かれているのか分からないと言われて、琴音はふくれっ面だ。


 明日香が慌てて取りなした。


 「いえ、琴音ちゃんが画が下手だと言ってるんじゃないのよ。琴音ちゃんが描いたのは、とっても素敵な画だと思うわよ。あまりにお上手だからね、返って画がいろんなものに見えるのよ。だから、琴音ちゃんの描いた画は私たち素人には、様々な解釈ができちゃうのよ。それで、ちょっぴり混乱しているだけなの」


 「ええ、そうですか? 私、画が上手いですか?」


 琴音がうれしそうに言った。


 「とってもお上手よ。プロの画家になれるわよ。そうだ。琴音ちゃん、あなた、画家になればよかったのに・・・」


 歯が浮くような明日香の言葉にいくら何でも誉めすぎだと蒼汰は思ったが、それで琴音の機嫌はすっかり直ってしまったようだ。琴音は明日香に褒められて、「エへへ」と頭をかきながら、うれしそうに笑っている。


 すると、機嫌が直ったところで、琴音が3枚のいびつな画が描かれた紙をテーブルに置いて立ち上がった。


 そして、また呪文を唱え始めたのだ。今度はさっきよりも短い呪文だった。蒼汰と明日香があっけにとられて、それを見守っている。


「コカコミ・イイマデ・イキモモ・ヨリタミ」


「コカコミ・フフネサ・カマモモ・ヨリタミ」


 すると、さっきと同様に3枚の紙が立ち上がってダンスを始めた。そのダンスはみるみる速くなっていき、やがて眼にもとまらぬ速度となった。ついに紙は光の線となる。3つの光の線がリビングを動きまわった。明日香と蒼汰の顔に光が点滅する。・・・さっき、蒼汰人形を創り出したときと同じだ。蒼汰はまた息をのんで、光を見つめた。琴音が叫んだ。


 「カエンバ」


 琴音の一声で3枚の紙の動きが少しずつ遅くなっていく。 


 「あるべきところに行け」 


 琴音が言うと、不思議なことに3枚の紙がそれぞれ3人の蒼汰人形のところへ飛んでいった。目を凝らすと、ネグリジェ蒼汰の手には湾曲した何かが、ワンピ水着蒼汰の手には四角い何かが、パンスト蒼汰の手には尖った何かが握られている。しかし、3体の蒼汰が手にしているものは、どれもすごくいびつな形をしていて、それが何か明確には判別できなかった。


 「どうなってるの? 3人の蒼汰人形が持っているものは何なの?」


 思わず明日香が叫んだ。琴音が笑いながら答えた。


 「神代さんの命令を聞かない代わりに3人の蒼汰くんに武器を持たせました」


 「これは武器なの? 3人の蒼汰くんは何を持ってるの? 琴音ちゃん」


 「ええ? わかりませんか? ネグリジェ蒼汰が持っているのが弓で、ワンピ水着蒼汰が持っているのが盾ですよ。そしてパンスト蒼汰が持っているのが剣なんですけど・・・私が画で描いた通りでしょ。見たら誰でもすぐにわかりますよね?」


 蒼汰は絶句した。3人の蒼汰人形が持っているものは、確かによく見ると弓、盾、剣のように見えないこともない。蒼汰の口から思わず本音が飛び出してしまった。


 「これが武器? 西壁さん、3人の蒼汰人形はこの武器で戦うの? こんないびつな武器が役に立つの?」


 蒼汰の言葉に琴音がまたふくれっ面になる。


 「神代さん。そんなに言わなくてもいいじゃないですか。ええ、ええ、たしかに私は画が下手ですよ。こんないびつな武器で、どうも悪うござんしたね」


 どうも琴音は画が下手なのをひどく気にしているようだ。明日香があわてて、また琴音を誉める。


 「いや、よく描けてるわよ、琴音ちゃん。あなた、やっぱり画がとってもお上手よ。蒼汰人形が持っているものは誰が見ても弓と盾と剣だわ。この立派な武器があったら、これで3人の蒼汰人形くんも万全ね。ろくろ首の女将とも充分に戦えるわよ」


 琴音がすぐに機嫌を直す。


 「さすが、明日香さん。やっぱり分かってくれましたね」


 二人の息がピッタリだ。まるで明日香と琴音の二人の漫才を聞いているようだ。


 すると、琴音があっと口に手を当てた。そして玄関に行って、紙袋を持ってリビングに戻ってきた。


 「すみません。さっき、明日香さんのお家に入るときに、この紙袋を玄関に置いて、そのまま今まで忘れてしまっていました」


 琴音が紙袋から中のものを取り出して明日香と蒼汰の前で広げた。蒼汰はそれを見て、ぶったまげてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る