第74話 人形4

 「琴音ちゃん。でも、どうして、蒼汰人形の3人にネグリジェと水着とパンストを着せたの?」


 明日香が琴音に聞いた。


 「それなんですが、明日香さん。神代さんの夢の中で、女将はネグリジェと水着とパンストを欲しがっていましたよね。このため、必ず女将はこれらを狙うでしょう。だったら、神代さんを守る蒼汰人形くんが、ネグリジェと水着とパンストを直接身に着けていたならば、女将の攻撃からそれらを守りやすいですよね。狙われているものを身に着けることで、それらを一番確実に守ることができるというわけなんですよ。それに、女将が蒼汰人形くんに注目しやすくなりますよね。そうして、女将をおびきだすことにもつながるわけです」


 パンスト蒼汰が持ってきた紅茶を飲みながら、明日香が琴音の説明を聞いている。


 明日香が感心して言った。


 「なるほど。言われてみるとその通りよねえ。さすが琴音ちゃんね」


 琴音が明日香に褒められて、「エへへ」と笑いながら頭をかいている。


 明日香は蒼汰人形に眼をやって、琴音に聞いた。


 「琴音ちゃん。蒼汰人形は私の言うこともきくのね?」


 「ええ。明日香さんの言うこともききますよ。明日香さん、何か命令してみてください」


 「では、私もやってみよう。ネグリジェ蒼汰。そこで逆立ちをしなさい」 


 すると、ネグリジェ蒼汰はその場で両手を床について、ネグリジェ姿のまま足で床を蹴った。そしてそのまま床の上を半回転して、反対側の床に背中からドサッと倒れてしまった。ネグリジェのすそが大きくめくれあがった。白いショーツが露わになった。ネグリジェ蒼汰はショーツを直そうともせずに、床に倒れたままじっとしている。


 何て恥ずかしい姿だ! ショーツが露わになったままにしているなんて!


 蒼汰は転がったネグリジェ蒼汰の横に飛んでいって、あわててネグリジェのすそを直した。


 琴音がくすくすと笑いながら言う。


 「3人の蒼汰人形くんは神代さんの能力をそのまま受け継いでいるんですよ。神代さんは逆立ちができないんでしょう。だから、ネグリジェ蒼汰も逆立ちができないんですよ。それでは、明日香さん、命令を神代さんにできるものに変えてください」


 「仕方ないわねえ。それじゃあ、ネグリジェ蒼汰。今度はこの壁のところで壁逆立ちをしなさい」


 明日香がリビングの壁を指さした。ネグリジェ蒼汰は、床から立ち上がって壁のところへ行くと、壁の手前に両手をついて、さっきと同じように足で床を蹴った。身体が大きく回転し、足が壁に当たって止まった。壁逆立ちだ。


 逆さになったネグリジェがゆっくりとネグリジェ蒼汰の身体を滑り下りてきて、頭の所で止まった。ネグリジェ蒼汰の白いブラジャーとショーツが丸見えになった。ネグリジェ蒼汰はその姿勢を崩さずに、逆さになったままでじっとしている。


 なんという恥ずかしい姿だ。蒼汰は自分が壁逆立ちをして、逆立ちの姿勢で白いブラジャーと白いショーツを丸出しにしてるように錯覚を覚えた。あまりの恥ずかしさに、また顔が真っ赤になった。


 「やめろ、やめてくれ。ネグリジェ蒼汰、逆立ちをやめろ」


 思わず、蒼汰は叫んでいた。ネグリジェ蒼汰のあまりにも恥ずかしい恰好をこれ以上見ていられなかった。


 「ネグリジェ蒼汰。やめろ。壁逆立ちをやめるんだ。壁逆立ちをすぐに止めて、もとに戻れ」


 しかし、なぜかネグリジェ蒼汰は動かなかった。壁に逆立ちをしたままだ。蒼汰がいくら逆立ちを止めるように命令しても、壁逆立ちをしたまま微動だにしなかった。


 えっ、どうして? どうして、僕が命令しているのに、ネグリジェ蒼汰は動かないんだ。


 蒼汰の頭にクエスチョンマークがいくつも点滅した。

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