第73話 人形3

 琴音はまず3人のうちの2人の人形にブラジャーとショーツをつけた。それから、テーブルに並べてあった赤いネグリジェと焦げ茶のパンストを持ってきて、それぞれを下着の上から2人の人形に着せた。具体的に言うと、ナイト用のブラジャーとショーツをつけた人形にネグリジェを着せて、普通のブラジャーとショーツをつけた人形にパンストをはかせたのだ。そして、残る1人の人形には、テーブルの赤いワンピースの水着をそのまま裸体の上に着せた。


 「はい、もう着替えましたよ」


 琴音の声に、蒼汰と明日香は振り返った。


 蒼汰は眼を見張った。


 リビングの中央に3人の蒼汰が立っていた。赤いネグリジェを着た蒼汰。赤いワンピースの水着を着た蒼汰。白いブラジャーとショーツに焦げ茶のパンストだけという蒼汰。パンストをはいた蒼汰の下半身には、焦げ茶のパンストの下に白いショーツが透けて見えている。パンストの蒼汰の白いショーツがなんともなまめかしい。


 明日香が3人の蒼汰をながめてため息をついた。


 「すごい。本物の神代くんが3人いるみたい」


 琴音が明日香に言った。


 「ええ、明日香さん。その通りです。神代さんが3人いるんですよ」


 「この3人がそれぞれ神代くんなのね」


 「はい。そうなんです」


 「でも、なんて呼べばいいのかしら?」


 「えっ?」


 「ほら、本物の神代くんを入れると、神代くんが4人いるわけでしょう。本物は今まで通り『神代くん』と呼ぶとして・・この3人にも名前をつけないと、本物と混同するんじゃないかしら?」


 琴音が感心するように言った。


 「さすが、明日香さんですね。確かにその通りです。では、明日香さん、この3人に名前を付けてあげてください」


 「名前ねえ?・・そうねえ、神代くんだと分かって、尚かつ、この3人を区別できる名前がいいわね」


 明日香は少し考えていたが、とんでもない名前を口にした。


 「そうだ。3人の名前はねえ・・順に、ネグリジェ蒼汰、ワンピ水着蒼汰、パンスト蒼汰というのはどうかしら?」


 琴音が拍手をした。


 「あっ、それ、すごくいいですね。ネグリジェ蒼汰、ワンピ水着蒼汰、パンスト蒼汰ってすごく分かりやすくて、しかも言いやすいですね。ぜひ、その名前にしましょう」


 琴音はすぐに明日香に賛同する。もはや明日香とはツーカーの間柄だ。


 「やめてよ。そんなふざけた名前はよしてよ。もっと、普通の名前を考えてよ」


 蒼汰が抗議したが、明日香が同時に重要な質問をしたので無視されてしまった。


 「で、琴音ちゃん。この3人の蒼汰くんたちはいったい何をするの?」


 琴音が横目で本物の蒼汰を見ながら言った。


 「神代さんの身代わりです」


 「身代わり?」


 「ええ、そうです。まず、この人形の機能ですが、話すことはできませんが、こちらの言うことは聞こえています。それで、私たち3人の命令は何でも言うことを聞きます。あとは神代さんの能力そのものを持っています。神代さんの能力というのは、ここにいらっしゃる本物の神代さんが持っている能力のことですね。すなわち、この3人の蒼汰人形は、本物の神代さんができることはできるし、本物の神代さんができないことは人形たちもできないんです」


 「この蒼汰人形たちは私たちの命令を何でも聞くの?」


 「ええ、私たち3人のどんな命令でも実行しようとします。その命令が実行できるかできないかは、さっき言ったように、本物の神代さんの能力で決まるんですよ。では試しに、誰でも実行できる命令を出してみましょう。そうですねえ・・・」


 そこで切って、琴音がいたずらっぽく本物の蒼汰を見て笑った。そして、パンスト蒼汰に向かって言った。


 「パンスト蒼汰。明日香さんと私にお茶を持って来なさい」


 すると、パンスト蒼汰が動き出した。白いブラジャーとショーツに焦げ茶のパンストだけというあられもない姿のままで、黙ってキッチンの方へ歩いて行く。明日香の部屋の間取りは分かっているようだ。パンスト蒼汰は、しばらくキッチンでガサゴソやっていた。蒼汰がキッチンを見ていると、やがて、白いブラジャーとショーツに焦げ茶のパンストだけという姿の蒼汰がお盆に紅茶を2杯入れてこちらに運んできた。そして、そのままの姿で明日香と琴音に紅茶を配り始めたのだ。


 蒼汰はまるで自分自身がブラジャーとショーツにパンストという姿で歩きまわって、二人に紅茶を配っているように感じられた。


 なんて恥ずかしい姿だ・・・


 パンスト蒼汰を見ていると蒼汰自身が恥ずかしくて顔から火が出そうだった。


 パンスト蒼汰が渡してくれた紅茶を飲みながら、琴音が本物の蒼汰を見て笑った。


 「お茶と命令すると、本物の神代さんは紅茶と判断するんですね。覚えておきますね・・・ウフフ」


 蒼汰は下を向いてしまった。琴音が続ける。


 「それで、この3人の蒼汰人形くんには妖怪との闘いでは最前線で戦ってもらうことになります。相手はあのろくろ首の女将です。しかも女将がやってこいと挑発したんですから、間違いなく戦いの場には、いろいろな罠が張り巡らされているでしょう。この3人の蒼汰人形くんには、その罠から私たちを守る役をやってもらいます。もちろん、罠にかかって命を落とせば蒼汰人形くんは消えてしまうんですが、そうやって私たちを守ってくれるんです」

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