第70話 助手5
琴音はネグリジェをテーブルに置くと、今度は赤いワンピースの水着を手に取った。そして、その水着をテーブルに置くと、次にパンストを手にとって、顔の前で広げた。そうして、パンスト、ネグリジェ、水着を交互に見ながら、穴が開くように見比べている。蒼汰は思わず下を向いた。恥ずかしい。顔が火でも吹いたように熱い。そんなに見ないでほしい・・・。
「おそらく」
琴音がいったん言葉を区切って続けた。
「これらも呪術に使うつもりではないでしょうか。今度は神代さんを呪うために、女将はこれらを手に入れたいのかもしれません」
蒼汰は驚いて琴音に聞き返した。
「ぼ、僕を呪うために?」
「ええ、これらは全部、神代さんが身につけたものですよね。ネグリジェと水着は明日香さんも身につけたものですが、パンストは神代さんしかはいていませんよね。呪術で使うのは呪う相手が身につけたものですので、女将が神代さんに呪いをかけようとしたら、神代さんが身に着けた、これらが欲しいのです」
「でも、どうして、女将が僕に呪いを?」
「理由は分かりませんが、妖怪が襲撃しても、なかなか神代さんを倒すことができないので、今度は呪いで神代さんを倒そうとしているのかもしれません」
明日香が話に割って入った。
「でもね、琴音ちゃん。神代くんを呪うのに使うものは、神代くんが身に着けたものだったら何でもいいわけでしょ。だったら、そんな女性の衣類を狙わなくても、神代くんが普段、普通に身に着けている男性の服を狙ってもいいんじゃないかしら?」
「呪いをかけるには、よくある衣類ではなくて、呪う相手を特定しやすい衣類を選ぶんですよ。その方が強い呪いを掛けることができるんです。女将がいつの時代から妖怪として活動してきたのかは知りませんが、こういうヒラヒラしたものや透き通ったものは女将の時代には無かったのではないでしょうか。そのため、ヒラヒラしたものや透き通ったものは女将にとって珍しく、そのためにそれを着た相手を特定しやすいんだと思います。相手を特定しやすいと、さっき言いましたように、より強い呪いを掛けることができるんです」
明日香が大きくうなずいて、琴音の言葉を自分の頭の中に入れるように繰り返した。
「なるほど、確かに・・・もし、ろくろ首の女将が平安時代から生きているとしたら、平安時代にはフリルのヒラヒラや、透き通ったパンストなんてものはなかったでしょうね。それで、女将にとってはそれらが珍しいので、それらを使うと女将にとってはより神代くんを特定しやすくなるわけね。それで、神代くんに強い呪いを掛けることができるわけか・・」
「その通りです。実は、女将が初めは佐々野さんのハンカチと靴下、それに茅根先生のストッキングを返せって言っていましたが、それが時間が経つと、茅根先生のストッキングに、つまりパンストに対象が絞られていますね。これも、ハンカチと靴下よりも、パンストの方が女将には珍しくて、呪う相手を特定しやすいので、対象がパンストに絞られたとも考えられるんです。これを逆に考えると、女将にとっては事情が変わって、より強く相手を呪う手段が必要になったために、ストッキングに対象を絞ったと考えることもできます」
「なるほど。そう考えると、全てが説明できるわけね。でも、女将が強く相手を呪う手段が必要になったのはなぜかしら?」
「さあ、そこまでは分かりません。でも、こういう透けた素材で呪いを掛けることが必要になったとすると、よほどのことがあったのでしょうねえ・・」
琴音はパンストの中に手を入れて、生地で手を透かして見ながら明日香に答えた。
やめてよ。そんな風に扱わないでほしい・・・蒼汰はまたうつむいてしまった。
明日香がそんな蒼汰には気づかずに琴音に質問した。
「それで、これからなんだけれどね。私は女将の挑戦を受けて立とうと思うんだけど、琴音ちゃんはどう思う? それに、女将と闘ういい武器はないかしら? さっきね、琴音ちゃんが来る前に、私たちいろいろ話し合ったんだけれど、いい武器が思いつかないのよ。琴音ちゃん、どうかな?」
「まず、女将の挑戦を受けて立つことなんですけれど・・・倉掛先生も女将が挑戦してきたということを大変心配されていました。きっと女将はさまざまな罠を用意してるんだと思います」
「罠の中に自ら飛び込むのは危険だというわけね」
「ええ、そうなんです。ただ、女将の挑戦を受けなかったとしても、事態はそんなに変わらないのも事実なんです。今回、女将の挑戦を受けずに放っておいても、また女将は神代さんのところに再々現れては襲撃を繰り返すことでしょう。いつ、女将が現われるかヒヤヒヤしているよりも、この際、女将に対して一気に勝負をつけるということも考えられるんです」
「倉掛先生はどうしたらいいと思っていらしゃるの?」
「先生は、罠があることに気をつけながらも、女将の挑戦に乗って一気に勝負をつけたいと言われていました」
「そう。じゃあ、決戦あるのみね」
「それで、女将のようなエネルギーの高い妖怪と闘うには、明日香さんが言われるように何か新しい武器が必要なので、私が先生に言われてこれを急いで持ってきたんです」
琴音はそう言うと、バッグから3枚の紙を取り出した。
それは大きな
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます