第67話 助手2
「はじめまして。京都大学の西壁琴音と申します。倉掛先生の助手をしています。私が若いので驚かれたと思います。私、去年、大学を卒業したばかりでまだ23才なんです。大学のゼミが倉掛先生のゼミでした。大学を卒業したら、会社に勤めてOLをするつもりだったんですが、倉掛先生に助手になるように説得されて・・結局、助手として京大に残ることになりました。どうぞ、よろしくお願いいたします」
そう言うと、琴音は明日香と蒼汰にぺこりと頭を下げた。
蒼汰も明日香も琴音に名刺を出した。上司の明日香から挨拶の口を切った。
「みろう出版の山之内です。編集長補佐をしています。よろしくお願いします」
「僕は、みろう出版の神代です。よろしく・・」
「ウフフフフ・・・」
蒼汰が挨拶をしかけると、琴音がこらえきれずに笑ってしまった。
「あっ、ごめんなさい。どうかお気を悪くなさらないでください。倉掛先生から聞いていた話では、神代さんってもっとごつい人かと思っていました。こんな女性みたいな・・・いえ、女性のようにかわいらしい方だとはまったく想像もしていませんでしたので、それで、ついうっかり笑ってしまいました。本当にごめんなさい」
琴音が頭を下げる。それで全員の緊張が解けたようだ。一気に場がなごんだ。明日香が琴音の言葉を受けて話しだした。
「ええ、そうなのよ、西壁さん。神代くんって、顔が女の子みたいに優しいでしょ。それに、身体つきも華奢で、背も女の子ぐらいだし。だから、とっても女性の服が似合うのよ。私も神代くんにはもう女の子の格好で一生を送りなさいって言ってるの。私がお嫁さんにもらってあげるって言ってね」
山之内さんにお嫁さんにもらってもらう話なんかを、こんなところでしないで欲しい・・・
明日香の言葉に蒼汰は恥ずかしくて、真っ赤になってしまった。思わず顔を下に向ける。そんな蒼汰を琴音が見ている。琴音の眼が優しく笑っている。
今日の蒼汰はボリュームのある長袖にヒラヒラのフリルが付いた、ゆったりした薄いベージュのトップスを着ている。長袖の2か所を細い紐で絞ることがキュートなアクセントとなって、袖のボリュームが逆に強調されていた。下はひざ丈のボリューム感たっぷりの薄いピンクのフレアスカートだ。スカートのフリルレースが二段になっていて、女性らしい雰囲気を醸し出している。髪にはセミロングのウィッグを付けて、水色のシュシュで髪を束ねていた。すべて、昨日、高島屋で明日香が選んで買ったものだった。
琴音はうっとりと蒼汰の服装を見ていたが、おもむろに口を開いた。
「神代さんの服、とってもかわいくて素敵ですよ。神代さんは、ずっとそんな女の子の格好をなさるんですか? ウフフ。それはいいですね。そして、神代さんが山之内さんのお嫁さんになるんですか? 素敵です。私もこんなお嫁さんが欲しい」
琴音が下を向いている蒼汰の顔を覗き込むように、上半身を蒼汰の方に傾けた。蒼汰は身体を固くした。
「しかし、神代さんって、本当に女の子の服が似合ってらっしゃいますね。同じ女性として、本当にうらやましいです。あっ、男性でしたね! ごめんなさい。ところで、神代さんは以前から女の子の格好をするのがお好きだったんですね?」
琴音の言葉に蒼汰は飛び上がった。
「以前から女の子の格好? そ、そんなバカな。こ、これは倉掛先生にそうしろと言われたからですよ。な、なんで、僕が女性の格好を・・」
蒼汰が赤くなって反論する。
「でもすごくお似合いですよ。この近くから見ても女性にしか見えませんよ。それも、私も嫉妬しそうな、すっごくかわいい女の子に見えます・・」
琴音がまたうっとりと蒼汰をながめながら言う。
「やめてくださいよ。西壁さん」
「どうぞ、琴音って呼んでください」
明日香が笑いながら提案した。
「それじゃあ、女の子3人組だから、みんな下の名前で呼び合うことにしましょうよ。私は明日香ね・・・琴音ちゃんに・・・こちらが蒼汰くん。あっ、女の子の名前じゃなかったわね。蒼汰くん、女の子の名前をつけてあげようか? 『蒼汰』の『蒼』の字で『あおい』なんてどう?」
琴音がすぐに明日香の話に乗ってきた。
「
蒼汰が口をとがらせた。
「もう、山之内さんも西壁さんも悪ふざけは止めてよ。僕は神代でいいよ」
明日香が笑いながら蒼汰の肩に手を置いた。
「神代くん。そんなに怒らないの。これから、妖怪退治をするんだから、あんまりピリピリしてたんじゃあ身体が持たないわよ」
琴音が、妖怪退治という言葉を聞いて、急に真剣な顔になった。
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