第62話 水着とネグリジェ8
明日香は蒼汰の顔を見つめた。明日香に見つめられて、蒼汰の胸がドクンと鳴った。明日香が話を続けた。
「神代くんが見た夢は本当に不思議よね。不思議なところに意味があるのかどうか、わからないけど・・・女将は赤い水着と神代くんがはいていたパンストを持っていったわけね。特にパンストが分からないのよ。女将はどうして神代くんのパンストを持って行ったのでしょうね? いままでは、女将は
蒼汰も首をひねった。
「確かにそうだね? ろくろ首の女将はパンストなら何でもよかったのかなあ?」
「しかし、今までは茅根先生のパンストを返せって言ってたのに、急にどのパンストでもいいっていうのはおかしいでしょ・・・うーん。どうにも分からないわねえ。それに加えて、ろくろ首の女将はどうしてあの赤いワンピースの水着も欲しがったのかしら?」
明日香はいったん話を切って何か考えていたが、やがて厳しい顔で蒼汰に聞いた。
「ところで、神代くん。ネグリジェはどうなったの?」
「えっ、ネグリジェ? いま、ちゃんと着ているよ」
蒼汰は自分が着ている赤いネグリジェを右手でつまんで明日香に見せた。
「そうじゃないの。あなたが夢の中で着ていたネグリジェよ」
「夢の中で着ていたネグリジェ? どういうこと?」
「ほら。夢の中であなたが着ていたネグリジェよ。夢の中であなたが着ていたネグリジェは、便器から手が出てきて、その手が破っちゃったのよね。それで、夢の中ではその破れたネグリジェはそれからどうなったの?」
「夢の中で破れたネグリジェ?」
そうか? 便器から出てきた手がネグリジェに掛って・・僕のネグリジェは一気に破られてしまった。そこまでは、はっきりと覚えているが・・・そう言えば、それから破れたネグリジェはどうなったんだろう?
蒼汰は夢を思い起こしてみた。言われてみればネグリジェが破れた後には、ネグリジェが夢に登場した記憶がなかった。
蒼汰は明日香の顔を見ながら首を振った。
「さあ、僕が夢で見たのは、便器の手がネグリジェを破ってしまうところまでだったよ。そういえば、あれから、あの破れたネグリジェはどうなったんだろう?」
「そうなの?・・つまり破れたあとは、ネグリジェは夢にはでてこなかったのね。ということは、おそらく便器の手が持って行ったということね」
「便器の手が持って行った?」
「そう。便器の手は間違いなくろくろ首の女将の仕業よね。ということは、女将はあなたの夢の中で、赤いネグリジェ、赤いワンピースの水着、あなたが昨日はいていた薄い焦げ茶色のパンストの3つを手に入れたということになるのよ」
「・・・」
「どうも、あなたの夢はただの夢ではないようね。・・・だって、こんなタイミングで、しかもそんなに鮮明な夢を見るなんてことは、普通はないと思うのよ。しかも、あの旅館以来、いままでなかなか現れなかったろくろ首の女将が現われたわけでしょ。絶対、あなたの夢は何か意味があるはずよ」
「意味? でもいったいどんな意味が?」
「私には、これはろくろ首の女将のメッセージのように思えるのよ。つまりね、夢の中で女将は赤いネグリジェ、赤いワンピースの水着、薄い焦げ茶色のパンストの3つを手に入れたら、あなたを襲わずに消えているのよ。いままでの妖怪の襲撃では、妖怪はあなたをしつこく襲撃してきたわよね。いままでは途中で消えるなんてことは絶対になかったのよ。ということは、女将の目的はあなたを襲撃することではなくて、さっきの3つを夢の中で手に入れることだったとも考えられるわけね」
「夢の中で手に入れることが目的?・・でも、山之内さん。いくらなんでも、それは考えすぎじゃない? だって、僕の着ているネグリジェは破れてないし、赤い水着も浴室に残っているし、焦げ茶のパンストも浴室の脱衣カゴの中にあるんだよ。実際に取られたものは何もないじゃない。そう考えると、あの夢はただの夢にすぎなかったということになるんじゃない? あの夢がただの夢じゃなくて何か特別な夢だったという証拠は何も残っていないんだよ」
「うーん・・特別な夢だという証拠ねえ?・・・」
明日香は少し考えた。そして何かを思いついたように、おもむろに蒼汰を見つめた。明日香に見つめられて、蒼汰の胸が再びドクンと鳴った。しかし、明日香はそんな蒼汰の気持ちには何も気づかない様子で、厳しい顔のままで蒼汰に命じた。
「神代くん。あなた、ここでお尻を見せなさい」
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