第57話 水着とネグリジェ3

 明日香も蒼汰の横で本を覗き込んでいる。蒼汰は文字を眼で追った。


『京都の三大風葬地「鳥辺野とりべの」「蓮台野れんだいの」「化野あだしの


1、平安時代の葬儀


 平安時代の京都では死んだ人を洛外へ運んで、そのまま野において風葬をしていました。風葬とは、死体を埋葬せずに、そのまま風にさらして自然に風化させるか、鳥に食べさせる葬送の方法です。鳥に死体を食べさせる葬送は別に鳥葬と呼ばれます。平安時代には庶民の葬送方法として風葬は最も一般的なものでした。平安京の人口は12万人程度だったと想定され、遺体をどうするかは大問題でした。都を清浄な空間として保つため、風葬の地は都の外の方がいいわけですが、あまりに遠いと不便になるので都からあまり遠くない場所が選ばれました。その風葬の地として有名だったのが鳥辺野とりべの蓮台野れんだいの化野あだしのの三地区です。鳥辺野とりべのは現在の東山にあります。蓮台野れんだいのは紫野とも呼ばれ現在の船岡山の北西部になります。化野あだしのは現在の嵐山の北にあたります。


2、鳥辺野とりべの

 鳥部野とも書きます。現在の五条坂の一帯は、平安時代は鳥辺野とりべのと呼ばれる風葬地でした。鳥辺野とりべのの鳥の字は鳥葬を意味しています。鳥辺野とりべのの入口には「六道の辻」の石碑が立っていました。この「六道の辻」の石碑を境に南は「あの世」(鳥辺野)で、北は「この世」というように区分されていました。「六道の辻」の石碑は現代でも残っていて、六道珍皇寺の前と、そして六道珍皇寺から松原通りを挟んで少し東南にいったところに立っています。現在は観光地として有名な清水寺も昔は鳥辺野とりべのにありました。宝亀9年(778年)に、風葬された死者を弔うために音羽の滝の近くに社を建てたのが清水寺の始まりという説があります。また有名な国宝の「清水の舞台」は死体を投げ捨てるところだったとも言われています。


3、蓮台野れんだいの

 現在の京都の北大路に船岡山公園がありますが、この船岡山公園があった一帯が紫野と呼ばれる地域で、その中でも船岡山の北西から紙屋川にかけての地域は蓮台野れんだいのと呼ばれていました。平安時代はその蓮台野れんだいのが風葬地でした。紫野という地名は貴重な紫草が生えていたことから名づけられました。紫草は生薬や染料に使われた薬草です。千本ゑんま堂の横にある千本通りはその蓮台野れんだいのへ死者を運ぶ道であったといわれています。死者を供養するために、千本の卒塔婆そとばが立ち並んでいた事から千本通りと呼ばれるようになったものです。船岡山の手前に閻魔えんままえちょうがありますが、これは閻魔様が住むあの世の入り口という意味の地名です。このように蓮台野れんだいのには死者や地獄にまつわる地名がたくさん残っています。夏になると、京都では夏の終わりの風物詩である五山の送り火が行われますが、その五山の一つである衣笠山(右大文字の山)の名は風葬にちなんだものです。この名は、蓮台野れんだいのに風葬された遺体に掛けられた着物が風で飛んで山の木の枝にひっかかり、ひるがえっているのが見えたことから名づけられたと言われています。


4、化野あだしの 

 『化』は「あだし」と読みます。これは「はかない、むなしい」という意味の古語です。鎌倉時代に吉田兼好が随筆『徒然草』の中で「あだし野の露、鳥辺山とりべのの煙」と書いたところが、この化野あだしのです。弘仁2年 (811年)に弘法大師空海が都を訪れ、都の人たちに土葬を教えました。空海が民に土葬を教えたのは、疫病の発生を抑える目的だったと伝えられています。当時、都の人たちは疫病の発生でたいへん苦しんでいたのです。空海は化野あだしのにある無数の風葬の死体を埋葬し、そしてその上に多くの石仏と堂を建てて五智如来寺と称しました。五智如来寺は当初は真言宗でしたが、鎌倉時代の初期に法然により浄土宗に改められて念仏寺と呼ばれるようになりました。これが嵯峨野にある化野あだしの念仏寺の始まりと言われています。毎年お盆に行われる化野あだしの念仏寺の千灯供養は、京都の夏の風物詩として日本のみならず海外にも有名です。 』

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