第56話 水着とネグリジェ2

 「それにしても、山之内さんはあんなド派手な赤い水着を一体いつ着るんだろうか?」


 赤い水着で風呂に入っている明日香を見ながら、蒼汰はふとそう思った。

 

 風呂から出ると、今度は、明日香は蒼汰に真っ赤なネグリジェを出してくれた。ネグリジェも水着と同様に明日香の持ち物だ。明日香自身は白地に花柄のかわいらしいパジャマを着ている。


 赤いネグリジェには胸元にかわいらしいフリルやレースがいっぱいついていた。そでもフリフリで、全体が流暢なドレープ感にあふれている。ゆったりとした、ふところの大きい長袖がひときわ眼を引いた。全体的に少し上品な透け感があって、まるでお姫様が着るネグリジェのようだった。


 真っ赤なフリフリのネグリジェを見て蒼汰は思わず耳まで真っ赤になってしまった。今日はよく顔が真っ赤になる日だ。今日、僕は何度真っ赤になったんだろう・・蒼汰はそう思った。蒼汰はたまらず明日香が着ているパジャマを指さして、明日香に言った。


 「山之内さん。僕がそのパジャマの方を着るよ」


 明日香は激しく首を振った。


 「ダメよ。神代くん。あなた、何を言ってるの。パジャマじゃ、シルエットが男性も女性も変わらないじゃないの。あなたは、妖怪があなただと判別できないように、シルエットが女性に見える服装をしなければならないのよ。あなたが着られるのはネグリジェしかないじゃない。このネグリジェは姫系ネグリジェといってね、お暇様が着るようなフリルが一杯ついているのよ。こんなにかわいいんだから、このネグリジェを着たら、シルエットはどう見ても女性に見えるわけなの。だから、神代くん。あなた、このかわいいネグリジェを着なさい。いいわね。これは上司命令よ。反抗は一切許さないからね」


 明日香にまた怒鳴られ、蒼汰はまた反論できなかった。『上司命令』というのが、明日香の殺し文句だ。明日香に『上司命令』と言われると、蒼汰は全く反論ができなくなってしまう。そうして、いつも『上司命令』で明日香に押し切られてしまうのだ。


 蒼汰はしぶしぶその真っ赤なネグリジェに身を包んだ。ん、赤いネグリジェ? 赤? さっきのワンピースの水着も赤だった。何となくだが、山之内さんが持っている服は赤色が多いような気がする。山之内さんは赤が好きなんだろうか? 蒼汰は、『赤』を頭にインプットした。


 それから、明日香は蒼汰をリビングのソファに誘った。蒼汰は明日香と身体が接しないように気を付けながら、少し明日香と間隔を置いてソファに座った。フリフリのネグリジェを着ているので、蒼汰は座るときに無意識に足をぴったりとそろえていた。明日香の横に座るときに胸がはずんだ。


 明日香はそんな蒼汰の気持には気づかない様子で、蒼汰の顔を見た。


 「神代くん。今日、京都大学で倉掛先生が私たちに渡してくださった本を見てみましょうよ」


 明日香がソファの横に置いてあった自分のカバンから一冊の本を取り出した。今日、京大で倉掛が明日香に渡してくれた本だ。明日香が本を蒼汰に見せようとして、本を蒼汰の方に差し出した。そのとき、明日香の身体が傾いた。明日香の足が蒼汰の足に当たった。明日香の腰が蒼汰の腰にぶつかってきた。蒼汰は身体をずらそうとしたが、明日香がこちらにさらに思い切り身を乗り出してきたので、身体を動かすことができなかった。明日香と腰を密着させた姿勢になった。腰から明日香の鼓動が伝わってくるようだ。明日香の息が顔にかかってくる。蒼汰の胸がキュンとなった。あわてて、蒼汰は本をのぞきこんだ。


 かなり昔の本だ。表紙の装丁がくたびれて、本の角が擦り切れていた。『謎を探る 京都の地名』というタイトルが見えた。明日香がページを繰って、倉掛がしおりをはさんでくれたページを開いた。蒼汰の眼に『京都の三大風葬地』という文字が眼に入った。


 蒼汰は首をひねった。風葬地? 風葬地とは墓地のことだろう。墓地が今回の妖怪騒ぎに何か関係するのだろうか?

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