第45話 倉掛教授6

 能力の高い妖怪にはどう対処すればいいのかという蒼汰の質問に、倉掛は少し困ったような表情を見せた。 


 「ちょっと、お時間をください。助手の西壁とも相談します。でも安心してください。必ず方策はありますから」


 大丈夫だろうか? 蒼汰の胸に不安が広がった。明日香も不安そうだ。


 倉掛はそんな二人の気持ちに気づいたようだったが、何も言わず話を続けた。


 「そして、緊急に対処しなければならないことの二番目ですが・・・何も対策をとらなければ、妖怪はおそらく今夜にでも神代さんを襲うでしょう」


 倉掛はここでいったん話を止めて二人の顔をながめた。蒼汰は一つうなずいて息をのんだ。そうだ、それが大切だ。至急に対策を講じなければ・・・。


 蒼汰は倉掛を見つめ返した。


 「それで、神代さんは、もう堀川六角のご自宅のマンションには戻らないようにしてください」


 「えっ、僕は家に帰れないんですか?」


 「残念ながら、事件が解決するまで当分は無理でしょう。昨夜、若い女が神代さんをマンションで襲いましたよね。襲撃は失敗したわけですが、おそらく妖怪は神代さんのマンションに何らかの罠を仕掛けていると思います。そんなところへノコノコと帰ったら、捕まえてくれと言ってるようなものですよ」


 「では、僕はホテルにでも泊まればいいのですか?」


 「それも一つの方法ですが、ホテルや旅館というのは不特定多数の人間が大勢いるところです。妖怪は今日、地下鉄の乗客を利用して神代さんを襲撃していますよね。どうも、妖怪は不特定多数の人間を利用する、言い換えると操るのが得意だと思えるんです。このため、ホテルや旅館というのは、できれば避けてください。不特定多数の人がいない場所で、妖怪に襲われても対処できる場所に隠れているのが理想的なのですが・・・そんなところは実際にはなかなかないでしょうが、どこか心当たりはありませんか?」


 「・・・」


 蒼汰は考え込んでしまった。そんな都合のいいところは、ちょっと思いつかない。

 

 すると突然、明日香が助け船を出した。


 「私のマンションはどうかしら?」


 「えっ、山之内さんのマンション?」


 「そう。そうなの。私のマンションがいいわよ。西洞院通にしのとおいんどおり夷川えびすがわの2LDKのマンションなんだけどね。二条城の東側よ。神代くん、私のマンションにおいでよ。その方が、私もあなたを守ってあげやすいし」


 思いもしなかった事態の進展に蒼汰は面食らった。もちろん、蒼汰は明日香のマンションには行ったことなど無かった。明日香が西洞院通にしのとおいんどおり夷川えびすがわに住んでいるということも初耳だった。


 山之内さんのマンション・・・そう思うと、胸に熱いものが込み上げてきた。思わず、顔が上気してきた。蒼汰は赤くなった顔を明日香と倉掛に見られないように下を向いた。下を向いたまま、明日香に言った。


 「でも、山之内さんのマンションなんて?・・・本当にいいの? 男性の僕がマンションにいたんじゃあ、山之内さんには迷惑じゃないの?」


 明日香は明るく笑った。


 「何を言ってるのよ。あなたには、もう充分に迷惑を掛けてもらってるわよ。それに、私はあなたの上司なのよ。私にはあなたを守る責任があるわ。だから、今夜から私のマンションに来なさいよ。これは上司命令よ」


 明日香は去年の暮に編集長補佐に抜擢され、職位では蒼汰や失踪した佐々野の上司にあたる。


 上司命令・・・その言葉に蒼汰の胸がどきんと鳴った。


 すると、倉掛が明日香に賛同した。


 「それがいいですよ。実は、山之内さんのマンションに神代さんが泊まるということが、緊急に対処しなければならないことの三つ目に関係するんですが、三つ目をお話してもいいですか?」


 蒼汰と明日香がまた倉掛を見つめた。

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