第44話 倉掛教授5

 「先生、これがあれば本当に妖怪をやっつけることができるんですか?」


 倉掛が渡してくれた、プラスチックケースに入った和紙を眺めながら蒼汰が聞いた。


 蒼汰の質問に倉掛が少し言いにくそうに答えた。


 「必ずやっつけることができるというわけではありません。それはおふだですから、その中にエネルギーが閉じ込められているんです。そして、お札のエネルギーが妖怪のエネルギーを上回れば、その妖怪を倒すことができます。つまり、エネルギーの低い妖怪、いうなれば能力の低い妖怪ですが、その場合にはそのお札が効果があるんですよ」


 果たして、こんなもので効果があるんだろうか? 相手は妖怪だ。


 蒼汰は今までに遭遇した妖怪たちを思い浮かべた。妖怪たちのパワーに比べると、手の中の一枚の紙は如何にも頼りなさげに思えたのだ。しかし、蒼汰はそれ以上は口に出さなかった。何もないよりはマシだと思ったのだ。


 倉掛はそんな蒼汰の気持ちに気づいた様子だった。おもむろに蒼汰に尋ねた。


 「何か、他にも分からないことはありますか?」


 蒼汰は別のことを質問した。


 「先生。ろくろ首の女将は、僕が持って帰ったハンカチ、靴下、ストッキングを返せと言ってますよね。ということは、それらを返したら、もう女将は襲ってこないんじゃないでしょうか?」


 倉掛は少し考えた。そして、ゆっくりと口を開いた。話しながら、蒼汰と一緒に考えるといった口調だった。


 「それは重要なポイントですね。では、ご一緒に整理しながら考えてみましょう。まず、神代さんが、それらを女将に返さなかった場合ですね。この場合は、女将は神代さんを殺そうとすることになりますね。殺してから、ゆっくりと奪い取ればいいわけですから」


 蒼汰と明日香は黙ってうなずいた。それを見て倉掛が続ける。


 「では、次に、神代さんが、それらを女将に返した場合を考えてみましょう。この場合は、女将は本当に神代さんを見逃してくれるでしょうか?」


 「・・・」


 「神代さんを見逃して女将にどんな得があるのでしょうか? ハンカチ、靴下、ストッキングは神代さんを殺してまで手に入れたいものなんですよ。つまり、それらには何か大きな秘密があるわけです。神代さんは、連中にとってそれらが重要なものだと知っている訳ですから、その秘密に一番近いところにいる訳です。そうなると、ろくろ首の女将は、神代さんからそれらを奪うとともに、その秘密も守ろうとするのではありませんか? つまり、神代さんは極めて秘密に近いわけですから、それらを返そうが、返すまいが、どちらにしても、神代さんを殺しておいた方が女将にとっては有利ではありませんか?」

 

 「た、確かにそうですね・・・」


 「ここで、よく思い出してください。神代さんと山之内さんが、女将の旅館で妖怪に襲われたときのことです。屋台をやっていた、麦わら帽子の妖怪が神代さんにこう言ってるんですよ。『人のものを盗んでおいて、助かろうなんて甘い了見だねえ。兄さん、覚えときなよ。盗人は殺される運命なんだよ』。これは、神代さんがそれらを返しても、返さなくても、妖怪は結局神代さんを殺すということに他なりませんよね」


 そうだ。あのとき、あの麦わら帽子は確かにそんなことを言っていた。ということは・・・どう転んでも、結局、僕は殺されるわけか。


 倉掛の「妖怪は結局神代さんを殺す」という言葉が蒼汰に重く響いた。


 急に倉掛のお札が大切なものに見えてきた。蒼汰は、お札をしっかりと握りしめて同じことをもう一度倉掛に確認した。


 「先生、これがあれば本当に妖怪をやっつけることができるんですね?」


 「先ほど申し上げたように、能力の低い妖怪ならば倒すことができます」


 「では、能力の高い妖怪は倒せないということですね。ということは、僕と山之内さんは能力の高い妖怪とは、どう闘ったらいいのですか?」


 「それは・・・」


 倉掛が言いよどんだ。

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