第43話 倉掛教授4
倉掛が蒼汰と明日香の顔を見ながら話を続けた。
「しかし、先ほどの山之内さんのお話だけでは、私には妖怪の一味がいったい何者なのかとか、井戸からどのようにして現世とあの世を行き来しているのかといったことは、残念ながら分かりかねます。これらについては、これから調査が必要ですね。ただ、お話を伺った限り、どうもこの本に関係があるのではないかと思われます」
倉掛はそう言うと、椅子から立ち上がって横の本棚から一冊の本を取り出した。しばらくページをめくっていたが、目的の箇所にしおりをはさむと本を閉じて明日香に渡した。
「必要な箇所にしおりを入れておきました。時間があれば、ぜひこの本を読んでおいてください。さて、お話を伺うと、緊急に対処しなければならないことが三つあります」
倉掛は蒼汰と明日香の顔を見た。倉掛は緊張した面持ちだ。いよいよ本番という顔をしている。蒼汰と明日香がうなずくのを見て倉掛が話しを始めた。
「まず、第一は神代さんが妖怪に襲われることに対抗する手段を考えなければなりません。妖怪は神代さんが隙を見せれば、いまこの瞬間にも襲ってくるでしょう。妖怪に隙を見せないという意味では、山之内さんが常に神代さんと行動を共にするというのは、非常に有効な手段です。その証拠に地下鉄烏丸線の四条駅では、妖怪はいったん山之内さんを神代さんから引き離して、それから地下鉄の中で神代さんを襲っています。これが、山之内さんが神代さんのそばにいるのを妖怪が嫌っている何よりの証拠なのですよ。だから、これからは、山之内さんは常に神代さんのそばにいてあげてください。神代さんは片時も山之内さんから離れないようにしてください。ただ、相手は人間ではありませんので、山之内さんが神代さんを守るといってもどうしても限界があります。それで、これをお二人にお渡ししておきましょう」
倉掛は簡易椅子から立ち上がると、靴を脱いで椅子の上に乗った。そして、両手を横の本棚の上に差し出した。本棚の上にはダンボール箱がいくつも乱雑に乗せてある。
蒼汰と明日香が何が始まるのかと息をつめて見つめていると、倉掛はダンボールの箱の一つに手を当てて、ゆっくりと箱を本棚から降ろした。そのダンボール箱は長らく本棚の上に置いたままになっていたのだろう。倉掛が机の上にそのダンボール箱を置くと、埃が宙に舞った。
倉掛が雑巾を持ってきて、ダンボールの箱を拭いた。そして、ダンボールの箱を開けると、中から小さな木箱を取り出した。古い木箱だ。ダンボールの箱のふたが十分に閉まっていなかったのだろう。その木箱のふたにも、うっすらと埃が溜まっていた。
蒼汰は木箱を覗き込んだ。ふたの表面に墨で何か書かれているが、薄くなっていて読み取れなかった。倉掛は木箱を開けて、中の物を取り出して見せた。横5㎝、縦10㎝ほどの古びた和紙だった。中央に梵字のようなものが一文字だけ書かれている。その和紙が木箱の中に数枚入っているのが見えた。
倉掛は木箱から和紙を2枚取り出すと、奥から出してきた透明なプラスチックケースに1枚ずつ丁寧に差し入れた。
「これは一種のお
そう言って、倉掛はおもむろに蒼汰と明日香にお札の入ったプラスチックケースを1枚ずつ手渡した。
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