第39話 協議3

 明日香が蒼汰の方を向いて、話を続けた。


 「正直言ってね、私も半信半疑なのよ。・・・妖怪って疑ってしまうのはね、何もろくろ首の女将だけじゃないのよ。神代くんのマンションを襲った若い女、地下鉄の乗客、タクシー運転手なんかも、考えるとみんな妖怪に思えてくるのよ。・・・その一方でね、私も妖怪なんてこの世にいるわけがないとも思うわけ。・・・だけど、じゃあ、私たちがいままで見たものはいったい何だったんだと言われると説明に困るのよ。そうするとね、五条坂のあの旅館の井戸に落ちて、あの茶わん坂の駐車場に出たことも含めて、やっぱり連中が妖怪だと考えないと、何もかも、まるで説明がつかなくなるのよ。・・・しかしね、そこでまた、いくらなんでも妖怪なんてこの世にいるわけがないという考えがでてきてしまうのよ。・・・なんだか、考えれば考えるほど、思考が同じところをぐるぐるまわってしまうのよ」


 困った顔をする明日香を、山縣がとりなした。


 「よし、分かったよ。じゃあ、明日香ちゃん。とりあえず、あれは妖怪だったということで話をしようよ。妖怪かどうかを考えてたら、話が前に進まないよ」


 明日香がふうっと息を大きく吐いた。そして、にっこりと微笑むと、今度は山縣と蒼汰の顔を交互に眺めながら話を続けた。


 「編集長、その通りですね。・・・じゃあ、あれは妖怪だったとして話をしましょう。・・・相手は妖怪ですから、もし、今度、そんな相手が本気で神代くんを襲ったら、私一人ではとても防ぐことはできないと思います。神代くんのマンションはもう知られていますので、今日からどこか別のところで神代くんをかくまうとしても、いつかはそこも妖怪に知られてしまうでしょう。昨夜、神代くんを襲った若い女は、いつの間にか、神代くんのマンションを見つけていたわけですからね。とにかく、相手は妖怪ですから、普通の方法ではとても対処できないと思うんです。・・・それで、私、誰か腕の立つ助っ人が欲しいんです。神代くんを妖怪から守ってくれて、そして、できれば妖怪をやっつけてくれる。・・・編集長、そんな強力な助っ人はどこかにいないでしょうか?」


 山縣が首をひねった。


 「助っ人ねえ。・・・しかし、ろくろ首の女将や、天井に張り付く若い女や、地下鉄の中で襲ってくる乗客たちや、のっぺらぼうのタクシー運転手といった話を信じてくれる人でないと、助っ人は務まらないわよねえ。・・・となると、警察はとてもこんな話を信じてくれないわねえ。警察どころか、うちの社の連中も間違いなく誰もこの話を信じないだろうしねえ。・・・こんな話を信じてくれる人でないとダメなんだけど、そんな人が誰かいるのかな?・・・」


 山縣は口の中でぶつぶつ言いながら、しばらく何か考えていた。が、やがて口を開いた。


 「相手は妖怪ねえ・・・本当に妖怪だとしたら・・・これは妖怪退治ってことになるわねえ。・・・じゃあ、京大の倉掛先生がいいかもしれないね。私のよく知ってる京大大学院の人間・環境学研究科の先生でね。民俗学に詳しいから。・・・倉掛先生についてはねえ、ちょっと、気難しいという人もいるし、変なことばっかり研究する学者だという人もいるけどね。実際はぜんぜん気難しくないから安心してね。民俗学の分野では評判の先生でね。腕は確かだよ。今回のような奇妙奇天烈きみょうきてれつな事件では、間違いなく頼りになると思うわ。私がいまから電話をしておくよ。だから、これから、すぐ相談に行くといいよ」


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