第16話 探索4
「神代くん。なんだか携帯の電源が入らないんだけど・・・おかしいわね?」
明日香が座椅子に座ると首をかしげながら聞いた。蒼汰が自分の携帯を出して操作してみると・・・明日香の言うとおりだ。なぜだか電源が入らない。
「えっ、本当だ。おかしいな? それと、エアコンがないのに、この部屋、なんだかひんやりしてるね」
「ほんとうだ」
それから、蒼汰も明日香も押し黙ったまま時間が過ぎていった。
「飲み物の注文・・・なかなか聞きにこないなあ」
「ええ、どうなってるのかしら?・・・それに、このお部屋、よく見たら、電話もないわね。お料理や飲み物のメニューもないし。旅館やレストランじゃない感じね。なんだかおかしいわ」
蒼汰はさっきのビニール袋を思い出した。
「あっ、そうだ。山之内さん。これを見てよ。さっき、この旅館の玄関に置いてあったのを、僕が見つけたんだよ」
蒼汰がカバンから先ほどの二つのビニール袋を取り出して、明日香に見せた。
「何、これ? ハンカチと・・これは男性用の靴下ね。・・・こちらは、女性のパンストか。どちらもしわくちゃね。さっきまで誰かがはいてたみたい」
「山之内さん。ハンカチを見てよ。この刺繡は、みろう出版のものだよ。それで、刺繍が赤いよね。ぼくらの入社年度なんだよ」
「えっ・・・たしかに赤いみろう出版の刺繍が入っているわね・・・赤い刺繍だわ。すると、私たちの同期入社? ・・・ということは、神代くん、これは葬儀屋くんのハンカチと靴下なの? すると、こちらは茅根先生のパンスト?」
「ええ、間違いないと思うよ」
「でも、どうして、こんなものがこの旅館の玄関に置いてあったの?・・・そうか、二人はこの旅館に来たのね」
「ええ、そうだと思う」
「神代くん、ここ、なんだかおかしいよ。早く出たほうが良さそうね」
「そうだね。飲み物を聞きにきそうにないし・・・山之内さん、もう行こうか」
蒼汰と明日香が立ち上がろうとしたときだ。
突然、部屋の明かりが消えた。
周囲は真っ暗だ。二人は立ち上がりかけた姿勢のまま、凍り付いたように動けなかった。
すると、天井からガタガタという音が聞こえてきた。
ガタガタ。ガタガタ。
蒼汰は飛び上がって、思わず明日香に抱きついてしまった。明日香も少し震えている。すると、どこからかうっすらと光がさしてきて、天井の隅の一角が暗闇の中にぼんやりと浮かび上がった。二人は天井を見上げた。
ガタガタ。ガタガタ。ガタガタ。
隙間から指が見えた。天井板を
「それを返せ」
女将が天井から片手を出して、蒼汰と明日香の方に向けた。手の五本の指が何かを掴もうとするように空中でゆっくりと動いた。
「返せ・・・それを返せ」
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