第14話 探索2
蒼汰と明日香が京町家を過ぎると、土塀が道の両脇に現れた。左手は高台寺の土塀だ。茶色がかった薄い肌色をした土塀を抜けると、高台寺南門通りが交差する。交差点から高台寺南門通りを西に入って、最初の横断歩道を左に入ると、石畳の道が現われた。
レンタルの着物に身を包んだ若い外人女性が三人、日傘をさして蒼汰と明日香を追い抜いていった。追い抜くときに左端の女性が蒼汰と明日香を見て、軽く左手を上げてウィンクをした。女性の金髪の髪が揺れた。蒼汰の顔が赤く火照った。
少し行くと酒屋の先に朱色の門の粋なカフェが現われた。カフェの前で数人の女子大生らしき一団がキャーキャー騒ぎながら写真を撮っている。カフェの前を左に折れて進むと、二人の眼の前に八坂の塔が現われた。
前を行く観光客の男女が八坂の塔を見て急に手をつないだ。蒼汰の手の横には明日香の白い手が見えていた。明日香と手をつなぎたいという熱い想いが一瞬蒼汰の脳裏をよぎった。明日香から蒼汰の手を握ることはない。蒼汰は自分の手を強く握り締めることで、明日香の手を握りたいという思いを押し殺した。
八坂の塔の正式名称は法観寺である。
法観寺を左に見て、坂を上ると産寧坂がある。二人は産寧坂を上った。坂はものすごい人だ。坂を上がる人と下る人の二筋の人の流れができていた。両脇には土産物屋が軒を連ねている。産寧坂を上っていくと、松原通りと交差する。松原通りの通称が清水坂だ。交差点を左手に曲がり、坂を上がるように清水坂を進むと、清水寺の仁王門が二人の目に入った。
清水寺は、西暦778年(宝亀9年)に延鎮上人が開山し、798年(延暦17年)に坂上田村麻呂が創建したと言われている。「清水の舞台」で知られる本堂は国宝で十一面千手観音立像が安置されていた。1994年に世界文化遺産に登録されたお寺だ。仁王門に次々と観光客が吸い込まれ、また吐き出されていく。
蒼汰と明日香は清水寺の仁王門の前で踵を返した。今度は来たときと逆に清水坂を下り、産寧坂を右に見て、次の三叉路を左に折れて五条坂に入った。二人は五条坂をまっすぐ下っていった。いまのところ、佐々野と
京都で暮らしていても、東山の観光地を巡ることは用事でもない限りめったにない。何年振りかの東山周遊でさすがに蒼汰の足は疲れていた。明日香も疲れていることだろう。五条坂には喫茶店が少ない。蒼汰はさっき通り過ぎた甘味処に寄らなかったのを後悔した。
ふと見ると、前方に「御食事と御宿」と書いたのれんが見えた。初秋の陽が白地ののれんに降りそそいでいる。白いのれんが揺れると光が散乱して眼にまぶしい。京町家風の建物だった。玄関の周りを出格子と犬矢来が取り巻いている。蒼汰が言うより早く、明日香が声を掛けた。
「暑いし疲れたわね。神代くん。ちょっと、あそこで休んでいきましょうよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます