第6話 旅館6
隆司と綾香は座椅子に座って向き合っていた。和室にはテレビがなく、旅館によくある宿の案内やパンフレットも置いていなかった。二人ともどうにも間がもてなかった。よく見ると電話もない。ふつう、こういうところは、部屋に案内された後でも、宿のものがお茶やお茶菓子を出してくれたり、宿泊者名簿を持ってきたりと結構忙しいのだが、女将が出て行ったあとは、なぜか誰もやってこないのだ。隆司がメールでもチェックしようと携帯を取り出したのだが、どういうわけか電源が入らない。綾香は携帯を持たない主義だ。そういえば、この部屋にはエアコンもないが、晩夏だというのにヒンヤリしている。思わず、隆司はつぶやいた。
「どうなっているんだ」
すると、綾香が立ち上がった。そして、入口のふすまの手前まで歩くと、隆司を振り返って言った。
「ねえ、佐々野君。ここ、おトイレ、どこかしら?」
「トイレ? そう言えば、女将さんは何も言ってくれなかったですね」
和室を見まわしても付属のトイレはなかった。隆司は立って行って、ふすまを開けて左右を見まわした。左右とも廊下がまっすぐに伸びて各々20mほど行ったところで左に曲がっていた。廊下には薄い常夜灯のような明かりが灯っている。
「ねえ、いっしょに、おトイレを探してくれない?・・・なんだか、ここ、怖いわ」
綾香は両手で胸を抱くようにして言った。
「いいですよ。僕もトイレに行きたいから」
隆司はわざと明るく言って綾香と一緒に廊下に出た。
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