第4話 旅館4

 「それは助かります。どうもありがとうございます」


 女将が玄関横の衝立の陰に綾香を導いた。その陰で濡れたストッキングを脱げということだ。隆司には女将の心遣いがありがたかった。隆司はびしょ濡れになった靴下をビニール袋に入れると、衝立からでてきた綾香からストッキングの入ったビニール袋を受け取った。化学繊維でできた薄い肌色の布がビニール袋の中でしわくちゃになっていた。


 女将が出してくれた目の荒い竹製のカゴが一つ玄関のがりかまちに置いてあった。しかし、二つのビニール袋の中には多量の水が溜まっていた。外側にも水滴がたくさん光っている。靴下とストッキングをビニール袋の中に入れるときに、手の水滴がついたのだろう。


 ビニール袋をそのまま竹カゴに入れたのでは、水がこぼれて玄関がびしょ濡れになってしまう。そう思った隆司はハンカチを出して二つの袋の外側を丹念に拭いた。そして、濡れたハンカチを自分の靴下の入った袋にしまい、二つの袋の口をそれぞれ結んだ。それから、水で玄関が濡れてしまわないように配慮して、それらを上がり框の竹カゴではなく玄関横の靴箱の上にそっと乗せた。


 そのとき、こちらに背中を見せていた女将が振り返って、二人を促した。


 「ほな、お部屋にご案内しましょ。どうぞ、こちらに来とぉくれやす」

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