第11話 出版社1
新進気鋭の売れっ子作家である
「しかしね、うちの葬儀屋くんと茅根先生が、なんで駆け落ちすんのよ」
みろう出版の編集長をしている山縣桜子が大声を上げた。みろう出版の編集部の部屋だ。みろう出版は、京都市丸田町通りに面した古びたビルの中にある。京都の歴史関係の図書を得意とする小さな出版社だ。山縣は今年35才。いつもミディアムヘアの髪を肩に流して、着古したグレーのツーピースに身を包んでいる。やり手の女性編集者として、京都の出版業界では名前の通った存在だ。いつも大柄な身体を持て余している。親分肌の性格で部下の信頼はすこぶる厚い。
「仕方がないですよ。編集長」
みろう出版の編集部員の
「どう仕方がないのよ?」
山縣が蒼汰の優しい顔を睨みつけた。
みろう出版にはスーツで出勤する規約はないので、蒼汰の今日の服装は紺のジーンズに薄茶色のカジュアルシャツというくだけた服装だった。カジュアルシャツの肘が擦り切れている。やさしい顔立ちとほっそりした体躯から、蒼汰は佐々野と比較されて社内では『お公家さん』と呼ばれていた。みろう出版のような小さな出版社では同期の男子新入社員を二人も採用するのは極めてまれであった。社長が佐々野と神代があまりにも対照的なので、彼らは二人で一人だと言って二人を採用したという話は社内では有名だった。
蒼汰は続ける。
「だって、茅根先生と葬儀屋は清水寺を出た後、とつぜん消息不明になっているんですよ。現代の日本で、しかも清水寺という超メジャーな世界的な観光地で、
「でもねえ。茅根先生と葬儀屋くんはそんなに仲が良かったのかしら? たしかに葬儀屋くんは茅根先生の担当だったけど・・・茅根先生は体育会系の男子がお好みだったのかしら?」
「男女の仲は分かりませんよ。葬儀屋と茅根先生は同い年だし。僕も同じ年だからわかるんですが、男女の間ではあるとき急に仲が進展することもよくありますよ」
蒼汰がわかったような口をきいた。
「だけど、葬儀屋くんが仕事をほったらかして駆け落ちねえ。茅根先生だって、何社も連載を持ってるのに・・・」
「わからないのは、そこなんですよ。茅根先生も葬儀屋も仕事をほったらかす人じゃないことは確かでしょ。では、駆け落ちには何か特別な事情があったのか?」
「たとえば、どんな事情?」
山縣が蒼汰の顔を覗き込んだ。
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