329 - 「金色の鷲獅子騎士団5――狙い澄まし」
「おい! やっぱり納得いかねーぞ!? なんでドレイクに乗りながら、ララを背負らなきゃいけねーんだよ!?」
これから戦いに赴くという緊張感が漂う中、ドレイクに騎乗したキングとララが、いつもの口論を始めた。
「ララが両手で掴まっていたら、いざと言う時に何もできなくなるのよ! 死にたくないなら、空で何もできないキングは黙ってるかしら!」
「ララお前っ! 朝食の時に自分で何て言ってたかもう忘れたのか!?」
「そんな些細な発言、綺麗さっぱり忘れたかしら」
「その言い方絶対覚えてるだろ!?」
「うるさいかしら! キングはララが落ちないように、ララの分までしっかりと掴まっておくのよ」
「くっそぉ! 納得いかねぇ!」
まるで赤ん坊をおんぶするが如く、おんぶ紐で縛られたララを背負ったキングが、ドレイクに振り落とされないように必死に手綱を握りながら嘆く。
そのドレイクの周辺には、
薄い雪雲から陽の光が溢れる白い空に、漆黒の
ため息を吐いたキングが心配気に話す。
「なぁ、これ悪目立ちし過ぎてねーか? 夜ならまだしも、朝日を浴びながら群れで飛行してる
「それはもうどうしようもないかしら。これでもできる限りの対策はしたのよ」
ララが気配を一時的に希薄化させる
キングのぼやきが続く。
「それによ、
「それは相手次第かしら」
「相手って言っても、この戦況で南部まで来る余裕のある大部隊は、ダイヤ家筆頭の上位部隊しか考えられないだろ。第一部隊のリフォンか、それとも第二部隊のリフィンか。はたまた第三部隊のライフか……」
「そういうときは、最悪を想定しておけば良いのよ」
「もしそうなら、さすがの
「言われなくても分かってるかしら。でも、
いつの間にか口論をやめたキングとララが、先頭を飛行するセラフに視線を向ける。
「まぁ、なぁ……」
口を尖らせて唸るキングだったが、一呼吸置くと、情けない自分たちを冷笑した。
「しっかし、俺らはいつもセラフにおんぶに抱っこだな」
「それは当然の結果かしら。ララたちの加勢に価値がなくなるほど、セラフが飛び抜けて強すぎるのが原因なのよ」
ララの言葉に、やれやれと肩をすくめるキング。
「まるで今のララみたいだな? なんなら次は抱っこしてやろうか?」
「……」
「痛ッ!? 髪を毟るな馬鹿! 抜いたら生えてこねーんだぞ!?」
「キングが馬鹿なことを言うからかしら! この! この!」
「いだだだだ!? や、やめろ! 分かった分かった俺が悪かったから止めろ止めてくれー! 髪はやめろぉおお!!」
◇◇◇
マサトは、スカイクレイパル山脈の西の空を埋め尽くす
通常の視界では到底捉えることのできない濃霧帯の奥に続く、長い列までも。
その数は、一万四千騎にものぼる。
(圧倒的な物量だな。確かに、この大軍で空から来られたら、大抵の国はどうすることもできないか)
改めて数の暴力による脅威を肌で感じる。
だが、マサトはいたって冷静だった。
気配を殺し、濃霧を抜けてくる
隊員に焦った様子もなく、編成飛行を崩さず、一定の速度で南下を続けている。
(さすがにまだ気付かれてはいないか。距離は大分あるが、これ以上の接近は察知される可能性があがる。編成を崩されると厄介だ。察知される前に仕掛けよう)
意を決したマサトが後続へ止まれと合図を出す。
「俺が先に仕掛ける。お前たちはここで待て」
後続には、シャルル、ヴァート、パークス、キング、ララの六人と、
マサトの言葉に、ヴァートが周囲をきょろきょろと見回しながら聞いた。
「えっ、もう近くに敵!? どこ!?」
マサトが答える。
「この前方の空の遥か先に広がる雪雲を、更に越えた先だ。まだかなり先だが、数が相当多い。敵に察知される前に先制する」
「わ、分かった!」
ヴァートは少し緊張した面持ちになりながらも、誰よりも先に敵を察知したマサトへ尊敬の眼差しを送った。
マサトは
背中から
(このくらい離れていれば影響はないだろう)
翼を大きく広げて減速し、位置の微調整後、停止。
その場に滞空すると、身体に装着していた零一型フィン・ネルを全て空中へ解き放った。
空を舞うフィン・ネルが形状をコの字に変化させ、マサトの目の前へ整列し始める。
(高さはこのくらいか)
大体の照準が定まると、今度はフィン・ネルへマナを大量に流し込み、活性化と質量変化を同時に行った。
マサトの身体から淡い光の粒子が溢れ、そのまま空中に浮かぶフィン・ネルへと注がれると、フィン・ネルは瞬く間に巨大化し、六つの巨大砲台へと姿を変える。
(あとは、出力を高めるだけだが……)
マサトから注ぎ込まれた高濃度のマナが、フィン・ネルの内部で高エネルギーへと変換され、砲口から眩い光と放射熱を発し始めた。
(さすがに気付かれるか?)
肌を焦がすほどの熱波を浴びるも、火耐性Lv3のマサトには何ら影響はない。
だが、仮にヴァートたちが近くにいた状況だったなら、被害が出ていてもおかしくはないくらいの熱波だ。
(ヴァートたちと距離を取って正解だったな)
カード能力やステータスの簡素な表示には、副次的な影響までは記載されないため、強い武器や能力ほど、この手のリスクを想定する必要が出る。
マサトは心の中で「まだ気付かれるな」と祈りながら、遥か遠くにいる標的へと狙いを定め、出力を上げ続けた。
◇◇◇
その部隊長であり、四大貴族が一つ、ダイヤ家の血を受け継ぐライフ・ダイヤ・ヘクトルは、部隊中衛で全体の指揮を執っていた。
「大分霧が薄くなってきたな。この濃霧帯を抜ければ、イーディス領は目前だ。皆、警戒を緩めるなよ!」
霧のせいで姿は見えずとも、遠隔で会話ができる
ライフの言葉に、周囲を飛行する精鋭たちが一斉に答える。
「「「ハッ!」」」
ライフは、自身の斜め後方にいた副隊長――ジルダ・エヴァンスの姿を視認すると、
「ジルダ、この霧の様子だと、私たちが一番乗りになる可能性が高そうだぞ」
「そうですね。山頂ルートはきっと大荒れでしょう。負傷者が出てなければいいですが」
「こればかりは運が悪かったとしか言えないな。だが、リフォンの部隊なら大丈夫だろう。疲労はするだろうが」
ライフが話題を変える。
「それよりジルダ、挙式の日程は決まったのか?」
「残念ながらまだ。この情勢ですし」
「そんなこと言っていたらいつまで経っても式なんてあげられないぞ? こういうときだからこそ、明るい話題も必要だ。だから早く決めてしまえって」
「フッ、それもそうですね。この一件が片付いたら、日程くらいは決めようと思います」
「ぜひそうしろ」
ふたりが世間話に花を咲かせていると、視界が晴れ始めた。
「よし! 鬱陶しい濃霧帯もようやく終わりだな!」
ライフが意気揚々と叫ぶとほぼ同時に、
「た、隊長! 前方で強大な
部隊を先導していた部隊員からの急報だ。
「なに……?」
「敵襲!?」
ライフとジルダに緊張が走る。
すると、前方の部隊の編成が急に崩れ始めた。
感覚の鋭い
それは、人族であるライフにも感じられるほどの力だった。
「な、なんだあれは……」
遥か前方で輝く数点の光。
それは急速に輝きを強めている。
「くっ……この濃霧帯が
瞬時に敵の罠だと悟ったライフは、部隊全体に号令を出した。
「敵襲ッ!! 直ちに魔法障壁を最大出力展開ッ!! 敵からの攻撃に備えろッ!!」
――――
▼おまけ
【C】 狙い澄まし、(青)、「ソーサリー」、[次の攻撃時、命中Lv5]
「よく狙いなさい。強力な魔法も、当てなければ意味がない――青の
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