305 - 「黄金のガチョウのダンジョン19―騙し合い」
ヴィリングハウゼン組合の第二班隊長であるメストが、マサトとタコスの壮絶な衝突を目の当たりにして息を呑む。
(
目の前で起きたその出来事がすぐには受け入れられず、その場で呆然としていると、メストに向けて誰かが叫んだ。
「おいメストッ! お前はまだ正気かッ!?」
第一班隊長のケイ・チャムだ。
燃えるように赤い髪を苛立たしげにかきあげながらやってくると、睨みつけるようにしてメストの顔を凝視した。
突然視界に入ってきたケイに気が付き、我に返ったメストがいつもの調子で答える。
「至って正気だが」
淡々としたメストの返事に、ケイが少しほっとした様子で頷く。
「……おし、いつものお前だ」
ケイはそう言ってすぐ周囲に目を向ると、再び険しい表情になり、悪態をついた。
「クソがッ! 何だったんだあれはッ!!」
メストはその言葉だけで、ケイが何に対して憤っているのか察した。
「あの影のことか」
あの影とは、マサトが周囲へ放った
メストとケイは、あの影の正体が何なのかまでは分かっていなかったが、部隊全体が何かしらの攻撃を受けたということは理解していた。
ケイが口を開く。
「あの不快な影のせいで、俺の部下は正気を失いやがった。声をかけても殴っても反応ひとつしねぇ。黒く染まった眼でぼーっと見返してくるだけだ。今は大人しくしてるが、嫌な予感しかしねぇ」
「それでこっちに来たのか」
その返答に、少し馬鹿にされた気分になったケイは、軽く舌打ちをして不快感を顔に出すも、ため息を吐くように話し始めた。
「ああ、そうだ悪いかよ。俺の部隊は、あの手の攻撃と相性が悪いのは知ってるだろ。支援役も無力化されちまったら立て直しが効かねぇんだよ」
主力部隊にも、支援役と呼ばれる回復や支援に特化したサポート専門の隊員がおり、部隊が危機的な状況に陥った時でも動けるよう、比較的安全な後方編成となっている。
だが今回は、その後方に位置していた隊員ですら全て飲み込まれてしまうほどの広範囲攻撃だったため、部隊を立て直そうにも、その手段を断たれた状態になってしまっていた。
不機嫌そうな顔で口を尖らせたケイに、少しだけ首を傾げたメストが淡々と答える。
「いや、別に悪いと言っているわけではない。さすがにあの攻撃は想像を凌駕していた。予備動作はおろか、周囲の
「ユージの部隊でも駄目か。なら、お前の部隊はどうだ? あの手の攻撃に耐性があったはずだろ? 支援役は残ってるか?」
ケイの言葉に、メストがようやく後方にいるはずの部下たちへ目を向けるも、すぐさま顔をしかめた。
「……どうやら状況は芳しくないようだ」
「黒魔法に耐性のあるお前の部隊でも駄目ってことは――クソッ!」
身体から炎を溢れさせながら憤るケイを余所目に、メストはこの後どう行動するべきか周囲の様子に気を配りながら考えていた。
(あの影に抵抗できた部下は、ざっと見渡した限りでもたった数人……今はこの場で部隊の立て直しに専念するべきか……? いや、立て直しを図るにしても、洗脳や操作系の魔法に耐性のある装備で身を固めているはずの支援役でも抵抗できなかったとなれば、さすがに対処できる許容を超えているか……対処法も分からない状態では、手段は限られてくる)
そこまで思考し、部隊の指揮を放棄して合流を選んだケイの選択にようやく理解が追いつく。
「俺たちだけでも
メストの視線の先には、
その光の壁を隔てる形で、タコスとマサトが対峙しているのが見えた。
メストがケイを促す。
「
「チッ、仕方ねぇか」
瞳が黒く染まった部下たちを尻目に、ふたりはタコスの元へ移動し始めた。
◇◇◇
白い光の壁――
落ち着いた様子のマサトと違い、タコスの表情には焦りが見え始めていた。
「シェイド系の
タコスが小さい声で呟く。
仲間だった者たちから殺気を向けられたことで、攻勢から一転、油断の許さない状況へと流れが変わったことに気付いたのだ。
そして、この形勢を覆すには、
「中々やりおる……」
タコスの視線が、マサトの側で悪びれた様子もなく、飄々としているカシへと向く。
兜から僅かに覗くカシの瞳は、他の者たちのように黒く染まるといったような異変は見られなかったが、タコスはマサトの何かしらの力によって、すでにカシも洗脳状態にあると判断した。
(念の為にと、主戦場から遠ざけておいたことが裏目に出たか……)
ヴィリングハウゼン組合にとって、カシが率いる第六班は後方支援部隊の要であり、今回のような非常事態における保険でもあった。
さすがのタコスでも、第六班隊長のカシだけでなく、第六班の隊員全てが一斉に洗脳される事態になるなど想定すらしていなかった。
(これは困りましたな。せめてサヤが健在であれば……)
第五班隊長であるサヤは、黒髪の女――シャルルから伸びる複数の影によって拘束されていた。
タコスが影に抵抗しているうちに一戦あったらしく、先程まで装備していた兜は脱げ、彼女の特徴的な
今は、後ろ手に縛られた状態で項垂れている。
だが、タコスはそこに違和感を感じた。
(拘束されているということは、カシのように洗脳はされておらぬのか? なぜだ? カシは洗脳できて、サヤは洗脳できない理由があるというのか?)
考えを巡らせながら、視線をマサトへと戻す。
「ふむ……」
光の壁越しに見えるマサトには、少しの動揺も見られない。
(見た目の若さと噛み合わぬ、老練な指揮官のようなこの落ち着きよう……まだ何か奥の手があると? それとも虚勢か?)
そう疑ったタコスであったが、目の前の男は、自分と正面から殴り合える力量をもち、
それだけでも相当な戦力となるが、更にあの男は、どんな手段を使ったのか分からないが、凶悪な時魔法を駆使する
その上、部隊全体への強力な洗脳である。
部隊の大半は無力化され、先程まで標的を追い込むことに成功していた状況が一転し、気が付けば自分たちが崖っぷちに立たされることになっていた。
これには、さすがのタコスも驚きを通り越して、敵を称賛したい気持ちに駆られたほどだ。
だが、諦めるにはまだ早いと、タコスはゆっくりと口を開いた。
「他の者を人質にとるとは。お主はそのような姑息な真似はしないと思っておったが、我輩の見込み違いでしたかな?」
タコスがそう挑発するも、マサトは冷静だった。
「これも俺の力の一つだ。命懸けの戦いに、自分の力を使うのは当然だろう」
マサトはそう告げた後、目を瞑りながら一呼吸置いた。
タコスには、その仕草の機微が、なにかを躊躇っているかのようにも感じられたが、黙って様子を窺っていた。
再びマサトが話し始める。
「これが最後の通告だ。
「なぜそのような提案を?」
率直な疑問だった。
タコスの質問に、やや間があった後、マサトは視線を少し下げつつ、素直に心情を吐露した。
「……約束を反故にした負い目がある。救うために戦う必要があっただけで、無闇に敵対したいわけでも、虐殺がしたいわけでもない」
「ふぅむ……」
タコスが腕を組みながら唸る。
この状況下で、改めて撤退を促されるとは思っていなかったからだ。
(ただ純粋に、無駄な血を流したくないと……?)
そう考えて、つい鼻で笑ってしまう。
仮にも相手は、
(闇の支配者が慈悲を口にするとは。似合いませんな。となると、これはブラフであり、なにか注意を反らしたいものが別にあるということですかな? そう、この大規模な洗脳になにか欠陥があるとか……)
タコスの口端が僅かに上がる。
そしてその判断に至ったのは、タコスだけではなかった。
「随分、必死じゃねーかよ、おい。早く撤退してほしい理由でもあんのか? あぁ?」
全身から溢れ出す炎を揺らしながら現れたのは、第一班隊長のケイだ。
その後に、黒い靄を纏った第二班隊長のメストも続く。
「
メストの言葉にタコスが頷き、マサトへ告げた。
「ふむ、なにか反論はありますかな?」
「……これでも退かないか」
「ん? なんですかな?」
小さく独り言を呟いたマサトに、タコスが首を傾げながらも聞き返すも、マサトはすぐに返事をしなかった。
ふたりの間に沈黙が流れ、その間に第三班隊長のリュウ・オウと、第四班隊長のユージも合流する。
タコスが再びマサトへ問いかける。
「そこにずっと隠れていても、状況は好転しませんぞ? ロンサム・ジョージが息絶え、このフロアが崩壊するまでそこにいるつもりですかな?」
マサトはともかく、
そして、行動するためには
ケイも続く。
「おい腰抜け野郎! そっから出てきて俺と戦えッ!!」
すると、ようやくマサトが反応した。
鋭い眼光をケイに向けながら、怒気のこもった低い声で告げる。
「そんなに戦いたければ、戦わせてやる」
マサトの瞳に仄暗い紫色の炎が灯り、濃厚な殺気がマサトの身体から溢れ出すも、ケイがそれに気付いた様子はない。
上等だとばかりに、ケイが威勢よく煽る。
「ハッ! ならかかってこいよオラァッ!!」
挑発を続けたケイだったが、突然周囲から向けられた殺気に表情を一変させた。
「なんだッ!?」
勢いよく振り向いたケイの瞳に、無数の火球が映り込む。
自分の部下たちが、ケイたちに向けて攻撃を開始したのだ。
「お前らッ!? クソッ!!」
迫りくる火球の弾幕を、ケイは咄嗟に炎の盾を目前に具現化させて防いだ。
タコスは周囲に光の膜を展開し、メストやリュウたちもそれぞれ独自の方法で防いでみせた。
だが、それは単なる牽制でしかなかった。
火球の弾幕に続く形で、複数の黒い影がタコスたちに襲いかかる。
最初に攻撃を受けたのはケイだ。
接近してきた黒い影から放たれた黒い斬撃を、瞬時に具現化した赤く光る剣で弾くと、炎を纏った拳で迎え撃った。
「目ぇ覚ましやがれッ!!」
振り抜かれた赤い拳が黒い影を捉える。
「ガハッ!?」
小爆発が起こり、黒い影が衝撃で消し飛ぶと、黄色い全身鎧姿の戦士が姿を現した。
その黄色い鎧は、ルードヴィッヒの器の鎧と呼ばれる
主力部隊は、全員がこの鎧を装備しており、容姿で部隊を判別する術はないが、ケイにはそれが第二班の隊員だと分かっていた。
黒い影を纏った飛行戦術は黒魔法によるものであり、メストが率いる第二班が得意とする戦術でもあったからだ。
兜越しとはいえ、顔を強打された隊員は、意識を飛ばしたのかそのまま落下していった。
その様子を凝視していたケイが苛立つ。
「クソッ! どうすりゃいいんだッ!?」
落下していく隊員に変化は見られなかったため、洗脳も解けていない可能性が高いと判断したのだ。
「全員気絶させるしかねぇのか!? ふっざけんなッ!!」
周囲にはまだ複数の影が様子を窺うように旋回しており、その他にも炎を舞い上げた隊員たちが迫ってきている。
メストやリュウ・オウも同じような状況だった。
どの隊長格も、洗脳されているだけの部下たちを殺すことはできず、かといって手加減しながら戦うには数も多く、次第に防戦一方になっていった。
それはタコスも同じだった。
(まさかここまで強い洗脳とは……)
周囲を見渡したタコスが額に汗を浮かべる。
主力部隊だけでなく、カシやサヤが率いる後方支援部隊までもが、自分たちを敵とみなして攻撃してきたことで、ようやく自身の誤ちに気付いたのだ。
(ぬかったか……仮にも
マサトという存在を過小評価しすぎていたと、結局は自分にも自覚できていない奢りがあったのだと、タコスは悔やんだ。
だが、タコスが正しくマサトの評価ができなかったのは、仕方のないことでもあった。
マサトはこの世の理から外れた存在であり、マサトが行使する魔法もまた、この世の理から外れた力である。
最初からこの世の理で測れる対象ではなかったのだ。
悔しさで歯を強く噛み締めたタコスだったが、決断と意識の切り替えは早かった。
大きく息を吐き出すと、おもむろに両手をあげて叫んだ。
「我輩の負けであるッ! 降参ですぞッ!!」
タコスへと高速で接近してきていた3つの光が、タコスの間近でぴたりと停止すると、それぞれ槍の先をタコスへと向けた状態で姿を現した。
槍の扱いに長けている戦士が多いのは、リュウ・オウが率いる第三班だ。
(止まったということは、洗脳した者に遠隔で指示も出せるということですかな)
そう状況を分析しつつ、あることに気付く。
(もしや、この人数全てに指示が出せると? だとすれば、とんでもなく恐ろしい力ですな……)
大粒の汗が額を流れる。
これ以上の戦闘継続は、部隊の大半を失う覚悟をしなければならないと判断したからだ。
さすがのタコスでも、その心労は相当堪えるものだった。
ケイら洗脳されなかった部隊長も、タコスの叫びに応じて動きを止めたが、どの部隊長も、その表情は苦渋に満ちていた。
降参宣言を受けたマサトが、タコスへ告げる。
「……いいだろう。そのままこのフロアから出ろ。洗脳した者はその後に続かせる」
「お主の言う通りにしよう。ただ、ひとつだけ我輩の頼みを聞いてはくれぬか?」
「なんだ?」
「そこにいる負傷したサヤも連れて行きたい」
少し間があった後、マサトが口を開く。
「駄目だ。後で向かわせる」
「それならせめて、無事だけでも確認させてはくれぬか?」
タコスの懇願に、マサトがシャルルに視線を送り、シャルルが無言でサヤを拘束をいくつか解く。
上半身の拘束が解けたことで、項垂れたままのサヤが、そのまま力なくお辞儀するような形で前のめりになった。
「おい、顔をあげろ。意識があるのは分かってる」
マサトがそう告げると、サヤの身体が小刻みに揺れ始めた。
「ふ……ふふふ……」
「……笑ってるのか?」
マサトが問い、シャルルが再び影を伸ばし、サヤの首を締め上げて強制的に上を向かせる。
血のこびり付いた
狂気を孕んだ瞳を大きく見開き、マサトを見上げたサヤが口を開けると、口の中で白く輝く宝石を噛んでいるのが見えた。
焦ったカシが叫ぶ。
「あっ!? やっべ忘れてた! それを今すぐ止めさせて! じゃないと――」
カシが言い終わる前に、サヤが行動に移す。
「ヴィリングハウゼンを舐めんじゃないわよッ!!」
サヤはそう吐き捨てると、口の中にあった宝石を噛み砕いた。
その瞬間、サヤを中心に白い波動が爆発的に広がった。
白い波動は一瞬で光の壁へと到達すると、光を中和しつつ外へと急速に広がっていく。
「フッフ、お手柄ですぞッ!!」
白い波動を浴びたタコスがサヤに称賛を送る。
サヤが噛み砕いた宝石は、周囲の
「邪魔な壁は消えたッ! 後は全力で頭を叩くのみッ! 行きますぞぉおおおッ!!」
全身から黄金色の光を放ち始めたタコスが、マサト目掛けて突進をかける。
背後に光の残像が発生するほどの高速移動だ。
一瞬でマサトとの距離を詰めたタコスは、そのままマサトの首を掴み、突進した勢いのままその場からマサトを強引に押し出した。
シャルルがマサトの救助に向かおうとするも、すかさずメストがその行く手を阻み、
タコスに首を掴まれたマサトが抵抗しながら叫ぶ。
「くっ……これを狙っていたのか!!」
「フッフ、約束を反故にされた気分はどうですかな? これでお互い様ですぞ」
「部下の命が惜しくはないのか!?」
「ヴィリングハウゼン組合の志を侮ってもらっては困りますな。我輩たちは最後のひとりになったとしても、任務遂行を続行する組織ですぞ?」
「チッ……」
「我輩たちの心配より、お主自身の心配をしてはどうですかな?」
「なに……?」
次の瞬間、マサトの首を掴んでいたタコスの手から眩い光が放たれ、瞬く間にマサトとタコスを飲み込んだ。
「
白き閃光が迸った後、まるで時間を巻き戻したかのようにその閃光が収束すると、大爆発を引き起こした。
その場に浄化効果のある聖なる白き光と炎による超高温爆発を発生させる、タコスの奥義のひとつである。
射程距離がなく、敵を捕まえておくか、敵の懐に入る必要はあるが、その威力は
当然、発動者への負担も大きく、連続では使用できないなどのリスクもあるが、タコスは確実にここでマサトを仕留めておかなければならないと判断したのだ。
(術者を仕留めれば、洗脳も解けるはずであるが……)
爆発の余韻が風に流されて消えていく中、四肢の吹き飛んだマサトの姿を見ながらタコスが思案する。
(さすがの
タコスは一息つくと、再び全身に力を込め、マサトの首を握りつぶした。
身体から切り離された頭部が落下ざまに黒い粒子となって消える。
四肢を失ったマサトの身体も遅れて黒い粒子となって霧散。
その光景に、タコスが一瞬固まる。
「……まさか」
タコスが嫌な予感に目を見開くと同時に、タコスを呼ぶメストの声が響いた。
「
タコスが声のした方角に勢いよく振り向くと、一際強い光を放つ炎を纏ったふたり――ケイ・チャムとマサトが、激しく交戦しているのが見えた。
「うぬぬ……あれは紛れもなく本体であったはず……一体どういうことなのだ……」
◇◇◇
(あれがカシの言っていたタコスの奥義か。あれを空撃ちさせたのは大きいな)
タコスが発動させた
タコスがマサトだと思っていたのは、マサトが
闇の眷属に、カシが所持していた一時的に姿を変えることができる魔法の薬――
マサトとしては、敵の不意を突ければいいと考えての策だったが、それが思わぬ成果を生んだ結果となった。
「余所見してんじゃねぇえッ!!」
炎を纏った男が殴りかかってくる。
火の加護をもつケイ・チャムだ。
気迫は凄いが、タコスに比べると虎と子猫ぐらいの差があるなと、マサトは迫ってくる赤髪の男を見て他愛もない感想を抱きながら、
「シッ!!」
先に突き出したケイの拳よりも、後に繰り出したマサトの拳が先にケイ・チャムの頬を捉える。
「グふッ!?」
ケイの頭部が爆発し、その衝撃でケイが身体を回転させながら弾き飛ばされるも、すぐ体勢を戻し、一瞬だけ驚いた表情を見せた。
だが、すぐにマサトのカウンターにやられたことを理解したのか、怒りに顔を赤く染めると、雄叫びをあげた。
「そんな軟な拳が効くかよッ! オラァああああああああッ!!」
ケイの身体から猛烈な熱風が吹き荒れ、それが炎となって渦を巻いていく。
炎は次第に大きくなっていき、一匹の大蛇へと変わった。
「灰燼と化して消えやがれぇえッ!
炎の大蛇が大口を開けて迫ってくる。
マサトは横に回避しようと動くも、炎の大蛇はマサトの動きに合わせて軌道を変えた。
ケイが笑う。
「ハッ! この蛇炎からは逃げられねぇよッ!!」
どうやら、この炎の大蛇には追尾性能があるようだ。
それならと、マサトは瞬時に
それを炎の大蛇の口へと放つ。
火球は瞬く間に大蛇の口へ入ると、大蛇を木っ端微塵に吹き飛ばすほどの大爆発を起こした。
「なにッ!?」
爆風に目を細めながらも、ケイが驚きの声をあげる。
そして、爆発によって広がった炎と煙の中から飛び出してきたマサトに気付くと、信じられないものを見たかのように目を見開いた。
「そんな馬鹿な……
自身の奥義が簡単に破られた事実を受け止められなかったのか、敵を目の前にして隙を晒すケイの顔面に向けて、マサトは無言で腕を振り抜いた。
「ぐぅはッ!?」
鮮血が飛び散り、白い歯が数本宙を舞う。
すかさず、マサトがケイの首を左手で掴み、全力で締め上げた。
「ィッ!? がはっ!?」
ケイがマサトの腕を掴み、抵抗しようとあがく。
だが、力の差は歴然としていた。
マサトの片手すらも振りほどけずに暴れるケイの顔が、赤から紫色に変わっていく。
悔しそうな視線を向けるケイへ向けて、マサトが告げる。
「俺と戦いたかったんだろ? どうだ? これで満足か?」
挑発を返されたケイが、怒りと苦しさで眼を充血させるも、マサトは構わず続けた。
「ひとつ気になってたんだが、なぜお前だけ兜を被ってないんだ? あの厄介な兜があれば、ここまで不用意に顔を狙われることも、首を締められることも、そのまま頭を刺されて殺されることもなかっただろうに」
その言葉と、光の消えたマサトの瞳の奥に潜む闇を垣間見たケイが、恐怖で目を見開く。
「よ、止せ……」
首を左右に振り、止めるよう必死に訴え始めたケイを無視し、マサトは
瞳孔が上を向き、瞼の中へと消える。
「残り、あと
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
▼おまけ
【UC】
「嵐の前の静けさを知りたければ、赤の魔導工房内で試しにこの石を砕いてみるといい。それまで騒がしかった工房内が一瞬で静かになるぞ――青の魔導工房長アオ」
【R】
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これからも更新続けていきますので、よろしければ「いいね」「ブクマ」「評価」のほど、よろしくお願いいたします。
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