283 - 「白金貨2000枚の使い道3」

『どちらを選択しますか? 真実の愛/永遠の愛』



(この二択に正解はあるのか……?)



 そう感じるも、これは白金貨1000枚分の価値に該当するカードだ。


 MEではデメリットが大きいカードほど、強力なカードが多いという背景もある。


 であれば、影響の少ないデメリットを推測して選択するべきだろう。



(真実か、永遠か。これだけじゃ違いが読み取れない。冒頭の言葉は、どちらかといえば質問に近かった。参考になるとすれば、最後らへんに聞いた言葉か……)



『わたしがあなたに求めるのは、真実の愛。わたし以外への愛の排除』

  『私が貴方に求めるのは、永遠の愛。私の愛を阻む全ての排除』


『あなたにふさわしいのはわたしだけ。他はいらない』

  『貴方は私だけのもの。誰にも渡さない』



 どちらも過激だが、愛へのベクトルやアプローチは違うように思える。


 前者は、自分以外へ向けられた愛の排除。ライバルとなり得る者を消すことで、愛を独占しようとする意思が垣間見える。


 一方で後者は、自分の愛を阻む者の排除だ。これは自分の前に立ち塞がる者を消すと言っているだけだろう。


 どちらも独占欲の塊なのは間違いないが、前者は他を排除しようとする意思が垣間見える分、仲間が多い現状はリスクが大きいように思えた。



(……『永遠の愛』の方にしよう)



「永遠の愛」



 マサトがそう答えると、周囲の白い光の粒子が霧散し、黒い光の粒子だけが残った。


 残った光の粒子は、数秒だけマサトの周囲を漂った後、勢いよくカードへと吸い込まれていく。


 全ての粒子が吸い込まれたことで視界がクリアになると、ようやくカードのイラスト面が明らかになった。


 1回目と同じフルアート仕様のイラストには、まるで誰かを包容しようとしているような、両手を前に突き出したポーズの美しい女性と、頭上から舞い降ちる無数の黒薔薇が描かれていた。


 よく見れば、美女が着ている黒を基調としたドレスにも、黒薔薇があしらわれている。


 長い黒髪や黒い唇とは対象的な雪のように白い肌が印象的で、それでいて頬はほんのり赤く、何かに見惚れるような恍惚とした表情をしていた。


 動きのあるイラストのため、白い吐息を漏らしながら、豊満な胸をゆっくりと上下させている姿は扇情的で、まるでカードの中からこちらを見ているような、そんな錯覚さえ覚える。


 次々に舞い落ちる黒薔薇もきらきらとエフェクトが多用されており、とても幻想的だ。



『永遠の愛を誓う黒の女王、シャルル・マルランを獲得しました』


【UR】 永遠の愛を誓う黒の女王、シャルル・マルラン、9/6、(黒×9)(6)、「マジックイーター ― 魔族」、[強制召喚、召喚マナ不足分×ライフ消失Lv9、召喚コスト上限不足分×ライフ上限消失Lv6] [(黒):下級悪魔1/1召喚1] [(黒×4):中級悪魔3/3召喚1] [(黒×9):上級悪魔5/5召喚1] [闇魔法攻撃Lv9] [闇魔法耐性Lv6] [自己封印時:無敵] [不死]



(これは……マジックイーター!?)



 表示された情報を詳しく読む時間もなく、すぐ召喚演出が始まった。



(強制召喚効果か!!)



 身体からマナが抜けていく感覚に襲われる。


 すでに保有マナは潤沢にあり、召喚コスト上限も問題ないが、紋章レベルが低い時に入手していたらと思うと、ゾッとするデメリットだった。


 放出されたマナがカードへと流れ込むと、地面から黒い光の粒子が溢れ出した。


 光の粒子はマサトたちを囲うように吹き荒れ、宙に浮いたカードへと集まると、少しずつ人型を形成していく。


 その演出に、フェイトとヴァートが期待に目を輝かせた。



「綺麗〜!」


「すげぇ……」



 人型に集まった黒い粒子が花火のように弾け、一瞬で黒髪の美女へと姿を変えると、黒いベールを被り、黒薔薇の花束を両手に持った美女が姿を現した。


 黒薔薇があしらわれたドレスを着ている姿は、結婚式で新郎を待つ花嫁にも見える。



「わぁ! とても綺麗な花嫁さんだわ!」


「こ、この人から、物凄く強い魔力マナを感じる……」



 フェイトが突然現れた花嫁に喜び、ヴァートは花嫁から発せられる濃厚な魔力マナに驚く。


 それまで静かに様子を見守っていた黒崖クロガケも、目を大きく開けたまま固まっていた。


 皆の視線を受けた花嫁が、ゆっくりと顔を上げる。


 真っ直ぐ切り揃えられた前髪はどこか日本的で、マサトを見つめる切長の目は潤んでいるように思えた。



「私を選んでくださった貴方に、永遠の愛を誓います」



 その発言に、フェイトとヴァートが頭に疑問符を浮かべ、黒崖クロガケが頬をぴくりと引き攣らせる。



「マサト、あれはどういう意味だ?」


「いや……後でちゃんと説明するから」


「今すぐ説明しろ」



 黒崖クロガケが迫ってきそうな雰囲気を見せると、マサトよりも先に、花嫁――シャルル・マルランが反応した。



「私の邪魔をするのは、何方どなた……?」



 シャルルが黒崖クロガケへと振り返った刹那、禍々しいほどの濃厚な魔力マナが周囲に吹き荒れた。


 だが、その程度では黒崖クロガケは動じない。


 そのままシャルルと黒崖クロガケが無言で睨み合う形になる。



「止せ、ふたりとも」


「貴方、止めないで」


「なんだこの感じの悪い女は」



 どんどん険悪になるふたりに、フェイトとヴァートもどうしたらいいか分からず動揺している。



「シャルル、黒崖クロガケも俺が召喚した同じ仲間だ」


「まあ」



 花束を持った両手を頬の高さまであげ、首を傾けながら微笑む。



「うっすらと感じていた妙な繋がりは、そういうことでしたのね。ふふふ、お可愛いこと」


「貴様……!」



 見下されたと受け取った黒崖クロガケが拳を強く握る。


 花嫁姿のシャルルと、ネグリジェ姿の黒崖クロガケがいがみ合う光景は、側から見たら相当な修羅場に見えたことだろう。



「何事ダァッ!? お嬢……」



 シャルルが発した魔力マナに気付いたガルアが颯爽と駆け付けるも、その異様な光景を見て固まり、そのまま何も言わずに姿を消した。


 船内の僅かな異変を機敏に察し、瞬時に駆け付けたガルアは優秀だった。一瞬でその場の状況を察し、撤退に移せたその判断力も。


 この状況に頭を抱えたくなるマサトだったが、しっかりとこの場で説明しておかなければ後々面倒事が大きくなると、やれやれと腹を括った。



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▼おまけ


【UR】 永遠の愛を誓う黒の女王、シャルル・マルラン、9/6、(黒×9)(6)、「マジックイーター ― 魔族」、[強制召喚、召喚マナ不足分×ライフ消失Lv9、召喚コスト上限不足分×ライフ上限消失Lv6] [(黒):下級悪魔1/1召喚1] [(黒×4):中級悪魔3/3召喚1] [(黒×9):上級悪魔5/5召喚1] [闇魔法攻撃Lv9] [闇魔法耐性Lv6] [自己封印時:無敵] [不死] [飛行]

「遥か昔、ワンダーガーデン大陸で歴史的大戦を引き起こした女王のひとり。悪魔デーモンの軍勢を率いた彼女は、史実では大陸の支配を目論んだ巨悪の根源として語られているが、大戦のきっかけはひとりの男を巡った痴情のもつれとも言われている――歴史学者グリムゼン」

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