275 - 「眠りの森のダンジョン10―悪魔と精霊」
濃厚な闇の気配を身に纏った大型の
その隣には、黒い膜で覆われた不気味な球体が、ふわふわと宙に浮いている。
それらは、どれも1人の侵略者によって召喚されたものだ。
(複数の
マレフィセントが空に浮かぶ男をそう分析する。
その男は、雷雲の精霊グルーンによる拘束と、アルゲスの黒杖による雷撃魔法を、雷を吸収する魔法盾を展開して防いでみせた。
マレフィセントが得意とするグルーンを使った強力な連携技だったが、過去にも1度だけそれを防いだ侵略者がいるにはいた。
しかし、その侵略者も無傷とまではいかなかった。
一度は対策を取られた連携技だったが、それでも相手に致命傷を負わせるだけの威力があるはずだったのだ。
なのに、今回は完璧に防がれてしまった。
それだけでなく、男の反撃1つでグルーンの方が逆に倒されてしまう始末。
これまでも侵略者にグルーンが倒されたことはなかったため、マレフィセントは男の認識を改めていた。
(今までの侵略者達とは格が違うようね。一見、ただの火球に見える火魔法も、
男が放った巨大な火球により、マレフィセントの根城は1発で跡形もなく破壊されてしまった。
山は大きく削られ、周辺の森は消滅した。
1人が即席で放った火球にしては威力が桁外れだった。
そのため、マレフィセントは、それが男の純粋な力ではなく、強力な
そして、目の前に召喚してみせた
すると、黒い球体の表面がボコボコと蠢いた。
(嫌な予感がするわね……)
マレフィセントが警戒心を高めると、球体の膜を突き破って何かが出てきた。
(何よあれ……)
それは、ワラスボのようにグロテスクな巨大な口だった。
直後、黒い膜がぼろぼろと崩れ去り、モンスターの全貌が明らかになる。
(頭部のない翼竜……!?)
黒い血のような筋を葉脈のように張り巡らせた翼を大きく羽ばたかせて滞空してみせたそれは、紛れもなく奇形のモンスターだった。
見た目は頭部のない翼竜だが、皮膚に鱗のようなものはなく、全身の筋肉は剥き出しで、全体的に黒い。
巨体の身体でも地上を素早く走れそうなほどに太い両脚に、鋭く湾曲した鉤爪。
そして、頭部と尻尾の先に、無数の牙が並んだ口だけがついていた。
(……何ておぞましい姿なの)
マレフィセントが警戒を強めていると、その不気味な黒い怪物が突然吼えた。
――キシャァァアアアアア!!
鼓膜を貫くような激しい振動がマレフィセントを襲い、それが第二戦の合図となった。
黒い翼を広げた
「グルーンッ!!」
マレフィセントはすかさず雷雲の精霊グルーンへ呼びかけたが、グルーンは先程のダメージが大きかったのか、呼びかけに応じなかった。
(グルーンが駄目なら――)
マレフィセントが次の精霊へ呼びかける。
「フラウンッ!!」
青色の光が舞い上がると、白い雲を纏った女型の精霊が姿を現した。
その精霊の名は、フラウン。
全身が透明な氷でできた、氷雲の精霊だ。
フラウンが両手を迫ってくる敵へと向けると、白い風が
白い風を浴びた
だが、
白い風が吹き荒れる空に、耳障りな笑い声が響く。
「あひゃひゃひゃひゃ!!」
「フラウンの拘束が効かない!?」
だが、先程よりも動きが鈍くなったのは確かだった。
マレフィセントが
「消えなさいッ!!」
黒杖の先から稲妻が走り、轟音が鼓膜を叩く。
その直後、迫る
稲妻が
片翼を失ったことで飛行できなくなった
だが、
「おひょひょ!? 中々やるんだひゃひゃひゃ」
「しぶといッ」
一撃で仕留められなかったことに、マレフィセントが眉間にシワを寄せる。
そして確実に息の根を止めるために、追撃の一手を繰り出そうとした時――目の前に迫る無数の火球に気が付いた。
「ブロディア! 避けなさい!!」
――ギィイイイイイ!!
怪鳥ブロディアが翼を翻し、火球の軌道から外れる。
だが、その直後、フラウン目掛けて朱色の閃光が走った。
「何ッ!?」
閃光はフラウンの頭部を貫き、粉砕された氷の破片が宙に散らばった。
空にフラウンの悲鳴が響く。
――キャァァアアアア!?
「あの男かッ!!」
閃光が放たれた方角へ視線を向けるも、そこに男の姿はない。
すると、ブロディアが大声で鳴き、再び急旋回し始めた。
(ブロディア!? まさかッ!?)
ブロディアの急旋回に体勢を崩されながらも、マレフィセントは閃光が走り去った先へと振り返る。
そこには、背中から火柱をあげた侵略者の男がいた。
男は高速で空を飛び回りながら、火球を次々に放っている。
「なんて速さなの!? ブロディア距離を――」
そうブロディアへ指示を出したその時、マレフィセントは背後に猛烈な殺気を察知した。
すぐさま振り向くと、黒い翼を広げた
「クッ!? お前はさっき墜としたはず!?」
「あひゃひゃひゃひゃ! 油断大敵だひゃひゃ! あの程度の傷はすぐ治るだひゃひゃひゃ」
笑いながらそう告げた
マレフィセントが黒杖を
「ならば次は跡形もなく消し去ってあげます!」
「おひょひょ? それは無理だッひゃ!!」
マレフィセントが雷撃を放つよりも早く、鋭い爪のついた
「ギィィイイイーーーーー!?」
「あひゃひゃひゃひゃ! お返しだひゃひゃひゃ!!」
「ブロディア!?」
マレフィセントがブロディアから飛び退き、空へ退避する。
その視線の先では、片翼を失ったブロディアが痛みに暴れながら落ちていくところだった。
(まさかブロディアまで……!!)
「おひょひょ? どこへ行くつもりだひゃ?」
距離を取ろうとするマレフィセントへ向けて、
マレフィセントがそれを迎え撃つ。
「汚らわしいッ!!」
黒杖から稲妻が走り、伸びてきた長い舌を焼き払う。
「ぎひゃッ!?」
感電した
(これ以上、この
マレフィセントが黒杖を振ると、瞬く間に雷雲が発生した。
雷雲は急激に膨らんでいく。
マレフィセントは雲の中に身を隠し、男と
(落ち着きなさい、マレフィセント。次の手を考えるのよ……)
マレフィセントは焦っていた。
圧倒できると信じていた自軍の戦力が、一気に瓦解させられたのだ。
何万といた怪鳥の群れは未知の攻撃に駆逐され、グルーンとフラウンは男の攻撃で退場させられた。
敵の怪物はフラウンの氷魔法で墜としたが、フラウンの力をもっても完全に動きを抑えられなかった
戦況から分かったのは、ブロディアを圧倒したあの
そして、
(このままでは……)
仲間を皆殺しにされ、復讐も果たせずにここで朽ちてしまうのかと、マレフィセントの心に再び怒りの炎が宿る。
すると、頭の中に声が響いた。
『また随分と苦戦しているようだが、今回も我の力を使わぬつもりか?』
そう告げたのは、マレフィセントが使役、契約したものの中で最も強い精霊――デザストルだった。
だが、それ故に完全掌握できておらず、マレフィセントがデザストルの力を借りることはなかった。
マレフィセントが目を瞑り、沈黙を貫いていると、デザストルは言葉を続けた。
『我と契約しても尚、うぬは我を信じぬか。それもよかろう。だが、やつはうぬが使役する精霊達では歯が立たぬのではないか?』
(黙りなさい、デザストル)
『あの
(黙りなさいと言っています)
『ククク……そうか、悔しいか。茨の国一の大賢者であるマレフィセントともあろう者が。自身の無力さに打ちひしがれておるのか』
マレフィセントの美しい顔が怒りで歪む。
だが、デザストルは構わず続けた。
『それは、何に対しての怒りだ? その憎しみはどこへ向けたものだ? 我か? うぬ自身か? それとも強大な敵に対してか?』
(…………)
『ククク……否、どれも違うであろう。弱さは罪ではない。己の無力を呪う必要もない。強き敵に憎しみを抱く必要すらない』
マレフィセントの身体を黄緑色の炎が包み込む。
『望め。力が欲しいと。強き力を求めることは誤ちではない。求めよ。我の力を。貪欲なるマレフィセントよ』
頭の中に直接囁きかけるデザストル。
すると、マレフィセントの身体から力が抜けた。
『それで良い。うぬに我の全てを与えよう。これで契約は完全に締結された。我の力を存分に使え』
マレフィセントが目を開ける。
その瞳孔の形は、竜の眼のように縦に細長く伸びていた。
――――――――――――――――――――
▼おまけ
【UC】
「フラウンが両手を伸ばしたら逃げの一手っすよ。もし一瞬でも判断が遅れたら、あっという間にカチンコチン! 寒いとかの次元を超えてるっす。もはや痛みも感じぬまま氷漬けっすよ。あ、いやでもその後凍傷やらなんやらで物凄く痛いっすね。今思い出しました――悪戯の大賢女ミスチフ・チチフ」
【R】 氷雲の精霊フラウン、1/4、(青×2)(4)、「モンスター ― エレメンタル」、[(青):一時能力補正+1/+1 ※上限3][氷魔法攻撃Lv2][飛行]
「あ! ち、違うっす! これはッ――ミスチフ・チチフの氷像」
【SR】 雷眼の鍛冶神アルゲスの黒杖、(赤×3)(3)、「アーティファクト ― 装備品」、[雷魔法攻撃Lv5][雷雲操作Lv3][装備コスト(赤×3)][耐久Lv5]
「卓越した鍛冶技術をもつ神アルゲス。そのアルゲスが愛用していた
【UR】
「デザストルが育てるのは、契約者ではない。闇だ。その闇を育むために、デザストルは存在している。デザストルが新たな契約を結ぶ度、その闇は大きく成長していき、世界にとっての厄災へと変わる――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます